第17章 小さな恋人②
信長と朱里、二人は仲良く手を繋いで城下の大通りを歩いていた。
安土の町は今日も賑やかで、人通りが多く活気に満ちている。
小さな朱里が人混みに飲まれないように、信長は当初、朱里を抱いて移動するつもりであったのだが…
『いやっ!じぶんであるく!』
頑なに拒否されて、渋々、腕の中から下ろした信長だったが、その途端、朱里は店先の煌びやかな品物に目を輝かせて走り出してしまい、慌ててその手を掴んだのだった。
「こら、勝手に先に進むな。危ないだろうが」
「むぅ……」
ぷぅっと不満げに頬を膨らませる子供っぽい仕草に、信長はやれやれと肩を竦める。
(全く…油断ならん奴め。すっかり子供らしくなりおって…)
こういう姿を見ると、幼い頃の朱里は随分とお転婆な娘だったのだろうなと勝手に想像する。
先程まで、小さくなって戸惑って泣いていたのが嘘のように、今はもう、目新しい城下の様子に目が釘付けになっている。
クルクルと変わる表情には惹きつけられるが、広い城下で迷子にでもなられたら面倒だ。
信長は、繋いだ手にグッと力を入れて握り直した。
「さて、どこへ行くか…朱里、まずは団子でも食うか?」
「うんっ!おだんご、たべたい!」
嬉しそうに顔を綻ばせる。
その屈託のない笑顔を見て、信長もまた自然と口元が緩むのだった。
「いらっしゃいませ、信長様っ!……っと、ええっと…??」
馴染みの茶屋の女将は、朱里の手を引いて店先に現れた信長を見て、戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「女将、茶を二つと団子を頼む」
「は、はいっ…あのぅ…」
女将はチラリと朱里の方へ目をやって何か言いかけたが、すぐに慌てたように目を伏せる。
何か、見てはいけないものを見てしまったような気まずさが漂う。
(城下を歩いている時も民達の何か問いたげな視線を感じたが…俺が子を連れているのがそんなに気になるのか)
店の奥から店主と女将の会話が漏れ聞こえてくる。
「信長様が小さな姫様をお連れだよ。も、もしかして…信長様の御子かねぇ??」
「まさかっ!信長様はまだ奥方様もお迎えではないじゃないかっ!朱里様とは最近恋仲になられたばかりだそうだし、御子がいらっしゃるはずもない…ということは…隠し子ってことかい!?」
「しっ、滅多なことを言うもんじゃないよっ…」