第17章 小さな恋人②
困ったように眉尻を下げる様子はどこか大人びているようでもあり、今の朱里にどこまで子供でどこまで大人の思考があるのか、信長にも判断がつかなかった。
寝癖がついてしまった髪を梳きながら、頭を優しく撫でてやると、トロンと蕩けた気持ち良さそうな表情になる。
何とも頼りなげで、放っておくと、また眠ってしまいそうだった。
「朱里、まだ眠いのか?」
「ん……ねむくない…」
眠くないと言いながら、信長の肩にコトリと頭を預けてくる。
(愛らしい姿だが、眠ってばかりではつまらんな)
「朱里、眠気覚ましに城下に散歩にでも行くか?」
「さんぽ??いく〜!」
先程まで眠そうだった顔が、一気にぱぁっと明るくなる。
「お、御館様っ!いけませんっ!こんな姿の朱里を城下へ連れて行くなど…」
(子連れの御館様を安土の民が目にしたら、どんな噂が広がることか…隠し子だと誤解されたら御館様のご威光に傷が付くことにもなりかねん…ダメだダメだっ!)
秀吉がモヤモヤしている間にも、信長はさっさと出掛ける準備を始めている。
秀吉がハッと顔を上げた時には、信長はもう外出用の羽織を羽織って朱里を抱き上げているところだった。
「では、行ってくるぞ、秀吉」
「御館様っ、お待ち下さい!ダメです、戻って……」
秀吉の必死の訴えも完全に無視して、信長は嬉々として部屋を出て行く。
「お、御館様ぁ…」
秀吉の情けない声に見送られながらも、信長は朱里との久しぶりの逢瀬に心が浮き立っていた。
最近は政務が立て込んでいて、朱里との逢瀬の時間が取れないでいたのだ。それが、散歩という名目とはいえ、思いがけず出掛けることになった。
(子供の姿であってもよい…朱里と二人だけの時が過ごせるのなら)