第17章 小さな恋人②
朝、目が覚めたら……身体が小さくなっていた。
昨夜は信長様に余すところなく愛されて、その逞しい腕の中で半ば気を失うようにして眠りについた…はずだった。
おかしなことなど、何もなかったはずなのに…目覚めてみれば、ガラリと世界は変わっていたのだ。
原因も分からなければ、元に戻す術も分からない。
只々戸惑うばかりの私を見た秀吉さん達もまた、明らかに戸惑っていた。
(光秀さんだけは、この状況でも面白がっているように見えたけど)
小さな手足で思うように動けず、思考も子供っぽくなってしまった自分が何だか情けなくて不安で、ついつい涙が溢れてしまう。
『案ずるな、朱里。俺が傍にいるのだ、不安なことなど何もない』
信長様の言葉はまじないの言葉のように、不安で押し潰されそうな私の心を安心させてくれる。
(信長様のお傍にいられるなら何も怖くない。大丈夫…)
「朱里…?どこか痛いのか?」
転んで泣いてしまった私を抱き上げて、信長様は優しく顔を覗き込んでくれる。
「っ…いたくないよ…だいじょうぶっ…ひっ、くっ…」
痛いところはなかったが、転んでしまった驚きで思わず泣き出してしまったのだが、子供というのは一度泣き始めるとなかなか涙が止まらないものらしい。
泣きじゃくる私の頭を、信長様は宥めるように優しく何度も撫でてくれる。
その手の感触が心地良くて…触れ合う信長様の体温の温かさにぽかぽかと胸の内が温まっていって……
「……………」
(………眠ったのか……)
泣きじゃくる朱里を抱き上げて、頭を撫でていると、初めのうちはなかなか涙が止まらず、苦しげにしゃっくり上げていたのだが、やがて穏やかな寝息が聞こえ始めた。
(やはり子供だな…泣き疲れて眠ってしまうとは…愛らしいというか何というか…)
頬に乾かぬ涙の跡を残しながら、くったりと力が抜けた身体を預けてくる幼い朱里を、信長は今一度しっかり抱き締めた。
「御館様…朱里は……」
「ふっ…泣き疲れて眠ったようだ。このまま天主へ連れて戻る。今日の執務は天主で行うゆえ、そのように手配致せ」
「は、はいっ!」
秀吉の返事を背中で聞きながら、信長はさっさと広間を後にする。
朱里が元の姿に戻るまで、片時も傍を離れるつもりはなかった。