第17章 小さな恋人②
「……で、朝起きたら、こんな姿になってたって言うんですか…そんな御伽草子みたいな話、俄かには信じられませんけど。この子、昨日、何か変なモノでも口にしました?」
「この小さい子供が朱里だって?確かに、どことなく面影があるような気はするな。お前、小さくなっても可愛い顔してるよなぁ」
ぷっくりした頬をツンツンと指先で突く政宗。
「おい、やめろ、政宗。乱暴に扱うなっ!」
「くくっ…まるで母親だな、秀吉」
「煩い、光秀、お前は黙ってろ、ややこしいから」
「朱里様…こんなに小さくなってしまわれるとは…何が原因なのでしょう??書物にもこのような不思議な事象は書かれておりませんし…」
ガヤガヤと言い合う武将達に囲まれた朱里は、戸惑ったように目をキョロキョロさせながら落ち着かない様子だった。
「貴様ら、それぐらいにしておけ。朱里、来い」
見かねた信長が声をかけると、朱里は嬉しそうに信長の傍に寄って来ようとする。
「のぶながさま〜っ…わぁっ!?」
パタパタと小さな足で上座の信長の方へ駆けて来た朱里は、信長の目の前で畳の縁に躓いて前のめりに転んでしまう。
バタンッという派手な音に、武将達は息を呑む。
広い大広間がしんっと静まり返った次の瞬間……
「うわぁ〜んっ…」
「しゅ、朱里っ…大丈夫か??どこ打った?痛いのか?」
「秀吉さん、揺さぶらないで下さい。畳の上で転んだぐらいで、大袈裟ですよ。朱里、大丈夫だから落ち着いて」
「これはこれは…小娘は姿形だけでなく、中身も子供のように頼りなくなってしまったようだな」
子供特有の甲高い泣き声をあげる朱里を囲んでオロオロ慌てる武将達を見て、信長は呆れたように溜め息を吐くと、泣きじゃくる朱里をさっと抱き上げる。
その自然な動きに、朱里もまた信長にぎゅうっとしがみついてしゃっくり上げている。
(全く…子供というのはよく泣くものだな。朱里が人前で泣くところなど見たことがなかったのだが…)
朱里とは恋仲になってまだ日も浅いが、守ってやりたくなるような儚げなところと気丈でしっかりしたところとを併せ持っているような女で、信長に自覚はなかったが、朱里のそういう不思議な魅力に惹かれていた。
(辛いことがあっても我慢して、人前で涙を見せるようなことはしない…放っておくと、どこまでも一人で頑張りすぎる女だな、朱里は)