第17章 小さな恋人②
「あ、あのぅ、御館様?この子供が朱里だということは納得致しましたが…その、どうすれば……」
朱里を腕に抱いた信長を見ながら、秀吉は困惑した様子で立ち尽くしていた。
「原因が分からん以上、このまま様子を見るしかない。取り敢えず着替えて朝餉に行く。秀吉、子供用の着物を用意しろ。この姿では皆の前には連れて行けぬ」
「は、はいっ、すぐにご用意致します。しかし…朱里のこの姿、皆にも見せるんですか…?」
口では納得したと言いながらも、イマイチ納得しきれていない様子で、秀吉は恐る恐る信長の顔色を窺うのだった。
(大人がいきなり子供の姿になっちまったなんて…到底信じられる話じゃない。朱里を好奇の目に晒すことにならないかと、心配なんだが……)
「仕方あるまい。この場に隠しておいても事態は変わらん。こやつは俺の傍に置く」
首に腕を回しぎゅっと抱き着く朱里の頭を、宥めるように撫でてやる。
その光景はまるで親子のようで微笑ましくもあった。
(御館様が幼子を抱いておられるお姿…あぁ、なんと絵になるんだ…いや、見惚れてる場合じゃない、あれは子供じゃなくて本当は朱里なんだから…あぁ、くそ、調子狂うな)
「秀吉、ごちゃごちゃ考えてないで、さっさと行け」
「も、申し訳ございませんっ…」
慌てて出て行く秀吉を冷ややかに見送りながら、信長は小さく溜息を吐く。
(秀吉であの調子なのだから、朱里を見て皆は一体どんな反応を示すだろう…)
「のぶながさま?」
「ん?何だ? っ…!?」
小さな手がいきなり信長の額に当てられる。
ペタペタと額を撫でられて訳が分からないでいると、朱里はニッコリ笑って言う。
「ニコニコ、して?」
「は?」
(あぁ…知らぬ間に眉間に皺を寄せていたのか…?全く…この俺に笑えと言うのか?俺にそんなことを言える女は、日ノ本中探しても貴様ぐらいしかおらぬだろうな)
先程まで涙を浮かべていたのが嘘のように、無邪気な笑顔を見せる朱里を見ていると、このありえない事態を、あれこれ考えて悩むのが滑稽に思えてくるのだった。
「………ふっ…まぁ、なるようになるか…」
「?」
キョトンとした顔で愛らしく見つめてくる小さな朱里の頬に、スリスリと頬を擦り寄せた信長は、その柔らかな感触を堪能しながら、小さな身体をぎゅっと抱き締めた。