第2章 百日(ももか)の祝い
「結華、はい、あ〜ん」
鯛の身を箸で摘んで口元に持っていく。
勿論まだ食べられないので形だけ食べさせる真似事をするのだけれど、口元に持ってこられたものを、きょとんとした様子で見つめる結華が、なんとも言えず可愛い。
気がつけば、信長様をはじめ武将達全員が結華に釘付けになっていて、何だか可笑しい。
特に秀吉さんは、もう既に目が潤んでいて、隣の席の光秀さんにいつものように揶揄われている。
(ふふ…皆が結華を見守ってくれてるんだ…私達、幸せだな…)
政宗が用意してくれた祝膳を一通り食べさせる真似事を終えると、信長様は徐に結華を抱いて立ち上がった。
家臣達に披露するように、上座で結華を抱き上げてみせると、「わぁーっ」っという歓声とともに、家臣の皆から口々に祝福の声がかけられる。
「御館様、結華様、おめでとうございます!」
「何とお可愛らしいっ!将来が楽しみですな」
「生きているうちに御館様の御子を拝めるとは…感無量でござるっ」
思い思いの言葉で喜びを表す家臣達の顔には、笑顔が溢れていて…皆が信長様の御子をどれほど待ち望んでいたのかが、私にもひしひしと感じられたのだった。
「…信長様…」
「ん?」
「私…信長様の御子を産めて幸せです。信長様と結華と…義母上様と、家族になれて…今すごく幸せです」
「っ…朱里……」
まだまだ乳飲み子の結華を育てていくのには、これからたくさんの大変なことや時には辛いこともあるだろう。
信長様の大望が叶うまで、今少し、まだまだ困難なこともあるだろう。
それでも………
産まれたばかりの結華をこの腕に抱いた時
初めて乳を飲ませた時
初めて笑ってくれた時
今日この日、皆に心からの祝福をしてもらった時
信長様と結華が私に与えてくれた、幸せに満ちたこの至福の時を、大切に生きていきたい、と、そう願わずにはいられなかった。