第17章 小さな恋人②
「ゔゔっ…うわぁーんっ…うゔっ…のぶながさまぁ…」
クシャっと顔を歪ませたかと思うと、大粒の涙が堰を切ったように溢れ出す。
秀吉の焦りが朱里の心を不安に陥らせたのだろうか、次々に溢れ出す涙を前に秀吉は益々慌ててしまう。
褥の上に座り込んで泣きじゃくる朱里を、信長は徐に抱き上げる。
「ひゃっ…あっ…のぶながさま?」
急に抱き上げられて驚いたのか、思わず泣き止んだ朱里の頬を、信長は壊れものを扱うかのように優しく撫でる。
「泣くな、朱里。貴様の涙は見たくない。大丈夫だ、俺が傍におるのだから不安なことなど何もない」
「っ…はい…」
こんな事態になっても常と変わらず冷静そのものの信長の様子に安心したのか、朱里はぎこちないながらも笑顔を見せる。
(少しは落ち着いたか…さて、これからどうしたものか…こうなった原因が分からぬままでは動きようがないが…さりとて、このままというわけにもいかぬし……)
朱里を腕に抱いたまま、思案する信長だったが……
「……のぶながさま?だいじょうぶ?」
小さな手が信長の頬へと伸ばされて、ぺたんっと触れた。
「ん?あぁ…大丈夫だ」
朱里を安心させるように、ふわりと微笑んでみせる。
(くっ…俺がこやつを不安にさせてどうする。こやつを守れるのは俺だけだというのに…)
「のぶながさま……」
「ん?」
「だいすきっ!」
「っ……!?」
小さな身体で、信長の首にぎゅうっと抱き着いてくる姿に、グッと心の内を鷲掴みにされたような心地になる。
愛しい女に抱き着かれたというのに、そこには艶めいた気持ちなどは湧き上がらない。
この頼りなさげな小さな存在を、俺が守ってやらねば、という強い庇護欲を只々掻き立てられるだけだった。