第17章 小さな恋人②
「あ〜のぶながさま〜、おはようございます…あれぇ、おかしいなぁ…のぶながさまが、いつもよりおおきくみえます…」
「くっ…貴様、その姿、如何した?何があったのだ?」
「えっ?」
己の足元で小さく身体を丸めていた朱里…なのだろうが、どう見ても四つ五つほどの幼子にしか見えない姿に、さすがの信長も動揺を隠せない。
(何があった?共に眠ってからさほど刻は経っていない。僅かな微睡の間に此奴の身体に何が……)
「のぶながさま?どうしたの?」
混乱する頭を抱え、戸惑う信長に、朱里の小さな手が伸ばされる。
普段なら簡単に触れられる距離にも関わらず、その小さな手は信長には届かなくて……
「……へ?なんで?ええっ…な、なに…なんでこんなにちっちゃい…ええーっ!?」
褥の上にぺたんと座り込んで自身の手をマジマジと見ている姿は、確かに朱里を小さくした姿そのものである。更には、幼子が着ているものがその小さな身体に合わぬ大人の夜着であるのが、朱里の身に予期せぬことが起こった証のようでもある。
「の、のぶながさまっ…」
小さな身体をぎゅっと縮こまらせて、今にも泣き出しそうな顔になるのを見て、信長は慌てて声をかける。
「っ…落ち着け、朱里。事情は分からぬが、貴様には俺がついておる。案ずることはない」
「で、でも…こんな…」
「おはようございます、御館様。秀吉です。もう、お目覚めでしょうか?」
襖の向こうから、いつもどおりの秀吉の声が聞こえてきて、朱里はギクリと身体を強張らせた。
「ひでよしさん…来ちゃったよっ!どうしよう…どうしよう、のぶながさまっ…」
見た目が子供の身体だからか、どうやら話し方も、どことなく舌足らずで幼くなってしまっている。
(本当に幼子のようだ…朱里だと分かっていても、どうにも調子が狂う。朱里であって、朱里ではないような…くっ、訳が分からん)
「御館様?失礼致します」
「やっ、のぶながさまっ!」
慌てた朱里が信長にしがみついたのと、秀吉が襖を開けたのは同時だった。
「御館…様?」
ゆっくりと襖を開いた秀吉の目に飛び込んできたのは、大きすぎる夜着を纏った幼女を膝の上に抱いている信長の姿だった。