第17章 小さな恋人②
固く閉じられた目蓋の上に眩しいぐらいの陽光を感じ、信長は無意識に眉間に皺を寄せる。
つい数刻前まで愛しい女を抱いていた身体は少し気怠くもあり、褥の中で身動ぎながら小さく息を吐く。
(もう夜明けか…朱里と過ごす夜は名残惜しいほどすぐに明ける。一人の時はあれほど長く感じていたものを……)
一人、天主で過ごす長い夜
戯れに女を抱いてひと時の快楽を得ても、またすぐに虚しさに苛まれた。
酒を飲んでも眠れず、微睡の中で夢を見る。
憎しみ、恨み、妬み…あらゆる負の感情が、夢の中で信長を責め立てる。
天下布武の実現のため、己が恨まれることは覚悟の上だった。
冷酷非情な魔王だと非難され、憎まれることも、甘んじて受け入れてきた。
全ては大望を実現するため…己の心を凍らせてでも叶えねばならない、戦のない世の実現を。
眠れぬ夜を過ごすことも、いつしか苦ではなくなった…朱里と出逢うまでは。
(朱里に出逢って、俺の時間は随分と穏やかに流れるようになったものだ)
ひとり寝が寂しいと感じるぐらい、己の中で朱里の存在は大きくなっている。
愛を交わし、共に浅い眠りについた愛おしい女の柔らかな身体を求めて、信長の手が褥の中を弄る。
「……朱里?」
腕の中に掻き抱いて微睡の中に落ちたはずだが、何故か、目が覚めた己の腕の中に、その柔らかな身体は囲われていなかった。
(……先に目覚めたのか…?どこへ行った?)
散々に貪り、何度も絶頂を迎えさせた。最後には半ば意識を失うように、くったりと身を委ねてきた。
先に起きて寝所を出る体力が残っていたとは思えないが……
「んっ……」
足元近くで小さな声が聞こえて、ハッと意識が集中する。
(っ…朱里っ…??)
「のぶながさま…?」
「!?」
予想外に幼い声に名を呼ばれて、訳が分からず一瞬身体が強張る。
視線を足元へと向ければ、掛布の中でモゾモゾと動く『もの』があり、信長はそれを不審げに見つめる。
「う〜ん、あれ?なにこれ〜?」
掛布の中から、くぐもった声が聞こえてくる。朱里の声…だとは思うが、どうにも幼い子供のように頼りなく……
「っ…朱里っ!?」
ーバサッ!
信長は、身体を起こし、思い切って掛布を足元まで一気に捲り上げた。