第16章 小さな恋人①
湯殿の熱さと刺激が強すぎる信長様の裸体にクラクラしながらも、何とか湯浴みを終えて、人目を避けながら天主に戻った私達は、待ち構えていた秀吉さんに散々お説教を食らうことになった。
「御館様っ!勝手に城を抜け出すなど…そのお身体で、何という無茶をなさるのですかっ!万が一、この事が漏れたら大変なことになるのですよ!?第一、城下といえど、いつ刺客に襲われるか…」
次々と捲し立てるように叱言を言う秀吉を、信長は心底げんなりした表情で冷ややかな視線を投げる。
「秀吉、貴様、俺を見くびるな。子供の姿であろうと、俺は刺客に遅れを取るような腑抜けではない」
「ははぁっ…ごもっともです。ご無礼を申しました」
ガバッと勢いよく平伏する秀吉に、信長は嫌そうに顔を顰めると、さっさと下がれと言わんばかりに顎で入口を指し示す。
「御館様っ!」
「あ〜、分かった分かった。今宵はもう、ここから一歩も出ぬ。子供の身体では酒も飲めぬし、貴様の望みどおり大人しくしておいてやる」
「は、はぁ…朱里っ、御館様をくれぐれもよろしく頼むぞ!」
「は、はいっ!」
秀吉さんの切実なお願いに押されつつも、名残惜しげに信長様の御前を下がっていく秀吉さんを見送った。
「朱里、貴様も今宵はもう下がれ」
「えっ…でも…」
いつものように一緒に休むものと思っていた私は、急に素っ気ない態度になって私に背を向けた信長様に、意外な気がする。
「あの…朝まで、一緒にいてはいけませんか?」
「っ…貴様、俺を煽っているのか?」
「ええっ…そ、そんな…」
くるりと振り向いた信長様の深紅の瞳が、私を射抜く。
少し不機嫌そうに口を尖らせながらも、その瞳は獲物を狙う鷹のように鋭く、じっと私を見つめる。
「……子供の姿だからと、俺を侮っているのではあるまいな?このまま夜伽を命じてもよいのだぞ?」
「えっ、ええぇ!?やだ、そんなっ…夜伽なんて…」
(無理無理っ…不謹慎過ぎるっ!)
「出来ぬとは言わせん。この姿でも、貴様を満足されるには充分だが?」
ニヤリと不敵に笑いながら距離を詰められて、焦った私は慌てて後退ろうとするが……
「ひゃ、わっ!っとと……」
焦り過ぎて体勢を崩し、後ろに尻餅をついてしまった。