第16章 小さな恋人①
信長と手を繋いで縁日の屋台を巡りながらも、朱里は煩く騒ぐ胸の鼓動を悟られまいと平静を装うのに必死だった。
(うーっ、ドキドキする…子供の姿なのに、なんでこんなに色気があるのっ…さっきだって…)
指先を舐める信長の熱い舌の感触を思い出してしまい、ぶわっと顔に熱が集まる。
指の腹をねっとりと嬲るようにいやらしく舐めるその舌の動きが、隣に並んで歩くあどけない少年のものだと思うと、何とも言えない背徳感を感じて、余計に身体の熱が昂ってしまう。
(子供の姿の信長様と人前であんなこと…変に思われちゃうよね)
屋台を覗く人でごった返す中、チラチラと私達を見る好奇心たっぷりの視線を秘かに感じていた。
少年の信長様と私……どんな風に見られているのだろう。
(っ…年若い若君をたぶらかす侍女?みたいに思われてたらどうしよう?? ダメだ…もっと人目を気にしないとっ)
安土の民で子供の頃の信長様を知る人はまずいないだろうが、もし万が一、この状況が明らかになっては大変だ。
(『天下人が子供になっちゃった』なんて、大問題だよ……。秀吉さんが必死になって信長様を天主にいさせようとした気持ち、今になったら分かるかも)
そうは言っても、信長を城下に連れ出したのは自分なのだが……
「………朱里?どうかしたか?」
「えっ、あっ、いえ…何でもないです…あっ、ほら、三郎様、獅子の舞が始まりますよ?」
「ん、あぁ…」
朱里に促され境内の中央を見ると、ちょうど厄除けの獅子の舞の奉納が始まるところだった。
屋台を見ていた人々も一斉にそちらに注目し出したため、境内は一気に混雑し始めて、舞を舞う演者を囲むように人混みの輪ができていた。
「わぁ…すごい人出ですね…んっ、あんまり見えないなぁ…」
ごった返す人の波の中で、朱里は舞を見ようとつま先立ちをしているが、フラフラと足元がよろめいていて危なっかしいこと、この上ない。
「おい、あんまり身を乗り出すな、危ないぞ」
「は、はいっ…っと、わわっ、きゃあっ!」
「朱里っ…」
背後から人波に押されて身体の均衡を崩した朱里は、グラリと前のめりに倒れそうになる。
信長は咄嗟に手を伸ばし、朱里の腕を掴んで引き留めようとしたが少年の力では上手く支えられなくて………
「うわっ…」
「きゃっ…」
(拙いっ…倒れるっ…)