第16章 小さな恋人①
「三郎様っ、はい、どうぞ!」
満面の笑みとともに差し出された串団子を見て、信長は口元を曖昧に緩める。
大勢の人で賑わう縁日の屋台を、朱里に手を引かれて巡っていると、賑やかな屋台の雰囲気が気分を昂揚させるのか、朱里はご機嫌であちらへ、こちらへ、と興味津々で目を向ける。
そんな子供みたいな姿が愛らしくて、信長は片時も目を離せないでいたのだが、朱里の方は逆に、小さな信長の面倒を見るのが楽しいのか、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。
(子供扱いは不本意だが…たまには甘えてやるのも悪くないか)
「ん、朱里、食わせろ」
差し出された串団子を受け取らずに、代わりに口元を突き出してやる。うっすらと唇を開いて強請ると、朱里は途端に顔を赤らめて目を泳がせた。
「も、もぅ…仕方ないですね」
照れながらも、俺の前にしゃがんで視線を合わせると、串団子を口元へ持ってきてくれる。
餡子がたっぷり付いた餅を一つ、串から齧り取って頬張ると、口内に小豆のしっかりした甘さが広がった。
「美味いな」
「ふふ…美味しいですね」
朱里も自分の分の団子をもぐもぐと食べながら幸せそうに微笑んでいたが、ふと、信長の顔を見て優しく微笑む。
「三郎様…」
「ん?っ………」
不意に朱里のほっそりとした指先が伸びてきて……信長の口の端にそっと触れる。
「……餡子が付いてました。ふふ…」
「なっ……」
いつもと違い、立場が逆転したように余裕の態度で信長を甘やかす朱里に、言い知れない焦りを感じてしまい、信長は衝動的に朱里の手を乱暴に掴み、餡子の付いた指先をパクリと口に含んだ。
ーぴちゃ ちゅっ ちゅうぅ…
甘ったるい餡子を舌で舐め取って、指を根元まで口に含んで、ちゅうぅ…と吸い上げる。何度も何度も……
「あっ…やっ、ダメっ、待って…」
途端に、先程までの余裕をなくして甘い声を上げる朱里を上目遣いで見ながら、信長は意地悪そうに口元を緩める。
(甘いな…こやつの声は餡子以上に甘ったるくてクセになる)
もっと喰いたい…と腹の底から込み上げる熱い衝動に、少年の身体は正直に反応するが、この状況ではどうにもできない。
袴の前をムクムクと押し上げる硬いモノの存在を朱里に悟られぬように、信長は、朱里の指先から名残惜しそうに唇を離したのだった。