第16章 小さな恋人①
心配して一緒について来ようとする秀吉を邪険に追い払い、信長は朱里の手を引いてずんずんと歩いていく。
やがて天主に着くと、勢いよく襖を開けて中に入り、文机の前にどかっと腰を下ろした。
はぁ…っと大きな溜め息を吐くその姿を、改めてじっくり見てみると………
漆黒の髪に燃えるような紅色の瞳
着物はいつもの黒い着流しではなくて、純白の小袖に藍色の袴をきちんと着けた、少年らしい爽やかな服装
いつもの信長らしくないその新鮮な姿に、思わず見惚れてしまう。
「その着物、どうなさったのですか?」
「秀吉が城下で見繕ってきた。何しろ、朝起きたら身体だけ小さくなっていたのでな。袴など、窮屈だが仕方あるまい」
「ふふ…よくお似合いですよ」
本当によく似合っている。
口調こそ普段の信長様のままだが、見た目はあどけない少年そのもので、その差異に妙にドキドキしてしまう。
(子供だけど子供じゃない信長様……って、何だか変な感じ。いつも以上にドキドキするっ)
目のやり場に困ってちらちらと信長様を見ていると、いきなりずいっと顔を近づけられた。
「わっ!な、何ですかっ!?」
至近距離で見る深紅の瞳はキラリと妖しい光を帯びていて、見つめられると息が止まりそうだった。
「朱里……」
信長様の顔が更にぐっと近づいて、吐息がかかり唇が触れそうな距離まで近づいて……
「っ…だ、ダメっ!」
「っ…んっ!」
唇が重なりそうになった瞬間、私は無我夢中で手のひらで信長様の唇を塞いでいた。
(ダメダメっ…いや、ダメじゃないかもだけど…や、やっぱり何だか罪悪感が…)
「くっ…貴様、何のつもりだ?」
「や、だって子供の姿の信長様と口付けするなんて…なんていうかその…悪いことしてるみたいで……」
口付けを拒否された信長様は不機嫌そうに眉を顰めていたが、私の言葉を聞いて呆れたような顔になる。
焦った私は益々しどろもどろになってしまう。
「信長様は今は子供なんですからっ!く、口付けなんてダメですよ!」
「……なるほど。ならば、俺が本当に子供かどうか……試してみるか?」
ニヤリと口角を上げて笑いながら、信長は朱里の肩を片手でぐいっと押して床へ押し倒そうとするが………