第16章 小さな恋人①
(いやいや、いつも隠れて召し上がってるじゃないか…金平糖)
心の中で緩くツッコミながら、秀吉は曖昧に微笑んでみせる。
「と、とにかく、原因が分かりませんので、あまり動かれぬようにお願いします!このようなお姿、城の者達に見つかっては大変ですから…」
「だから天主に引きこもっておれ、と此奴は言うのだ」
心外だと言わんばかりに口を尖らせてジロリと秀吉を睨む。
(わっ、可愛いっ…拗ねてる子供の信長様、貴重だわ)
その子供っぽい仕草が可愛らしくて、目の前の少年が信長様だということを忘れて、思わず手を伸ばし、その頭をよしよしと撫でていた。
「おいっ、貴様、何のつもりだ!」
「あっ、すみません…つい…」
勢いよく手を払い除けられて驚いて信長を見ると、顔を真っ赤にして拳を握り締めながら睨んでいる。
(やだっ、可愛い過ぎるっ…)
信長らしくない素直過ぎる反応に、キュンと胸の奥が締めつけられる。
子供の姿がこんなに可愛い過ぎるなんて反則だ。
「の、信長様、取り敢えず天主に戻りましょう。こんな所で騒いでいたら目立ちますから…」
「ふんっ!当然、貴様も一緒に来るのだろうな?俺を退屈させぬよう…分かっておるだろうな?」
「ええぇっ…あっ、はぁ…」
(前言撤回っ…中身はいつもの信長様だった!でも、どうしよう…もう引き返せないっ…)
全く子供らしくない不敵な笑みを浮かべる信長に一抹の不安を覚えたが、もう遅い。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、小さな可愛らしい少年の手が躊躇うことなく私の手を掴み、グイッと引き寄せられる。
「ひゃっ……」
骨張ってほっそりとした見た目の印象を裏切る強い力で引き寄せられてよろける私を見る信長様の顔は、至極得意げだった。
「くくっ…行くぞ、朱里。ついて来い」