第2章 百日(ももか)の祝い
結華は機嫌がいいようで、信長様の腕の中で「あ〜、あ〜」と可愛い声をあげて手足をバタつかせている。
結華を見つめ、宝物を抱えるように大事に抱く姿は、ひどく慈愛に満ちていて、見ているだけで私も幸せな心地になった。
「信長様、ありがとうございます!結華を連れてきて下さったのですね」
「ああ…機嫌ようしておるわ。母上、お久しゅうござる。お変わりないか?」
「ええ…信長殿も…元気そうで…良かった」
「……………」
それきり二人とも黙ってしまわれる。
(ふふっ…照れていらっしゃるのかな…可愛いな、信長様…)
「あ〜あ〜、あうぅ〜」
結華の無邪気な声が、部屋の空気を穏やかなものにする。
ニコニコと屈託のない笑顔を見せていて、信長様の言うとおり機嫌が良さそうだ。
「母上、結華だ。抱いてやって下され」
信長様が声を掛けると、義母上様は弾かれたように顔を上げ、信長様の腕の中の結華へと視線を向けられる。
「あ〜」
その時、結華が義母上様に向かって小さな手を伸ばした。
「っ…ああっ…結華っ」
信長様から結華を託された義母上様は、しっかりと抱いて下さって……その表情はこの上なく慈しみ深いものだった。
「ほんに可愛いのう…信長殿によう似ておる。目元などそっくりじゃ……朱里殿、信長殿の御子を産んで下さったこと、礼を言います」
「っ…そんなっ…義母上様っ…頭をお上げ下さいっ…あのっ、私…お世継ぎを産めなくて……」
「何を言うのです、そんなこと気にせずともよい。貴女が信長殿の初子を産んでくれた…それだけで充分ですよ」
「そうだぞ、朱里、貴様は俺に一生愛されるのだからな…初めての子が姫でも何の問題もない。子の性別など気にならなくなるぐらい、俺が何人でも孕ませてやる…ふっ…覚悟しておけ」
「!?ちょっ…信長様っ!義母上様の前で何てこと言うんですかっ!もうっ!」
「ふふ…相変わらず二人は仲が良いわね」
自信満々に不敵な笑みを浮かべる信長様と、その横で顔を真っ赤に染める私
それを優しく見守るように見つめる、結華を抱いた義母上様
数々の激しい戦や手酷い裏切り、暗殺など、殺伐とした中で生き抜いてこられた信長様と、こんな風に幸せな家族の時間を過ごしていられることが、私は堪らなく幸せだった。