第15章 赦す者 赦される者
「余所ごとを考える貴様が悪い。俺のことだけ考えていろ」
「もぅ…勝手なことばかり言って…んっ…」
ーちゅっ ちゅうぅ…
抗議の言葉は甘く塞がれて、それ以上の反論を許さぬように挿入りこんできた舌にぐずぐずに蕩けさせられる。
この旅の本来の目的を忘れさせられてしまいそうな信長の熱い抱擁に、いけないと思いながらも流されてしまう。
「んっ…ふっ…あぁ…」
口づけだけですっかり骨抜きにされてしまった朱里は、信長の広い胸板にくったりと身を委ねる。
凭れかかる朱里の重みを心地良く感じながらも、ようやく唇を離した信長は、何事もなかったかのような涼しい顔で馬の手綱を握り直し、真っ直ぐに前方の道を見据えた。
「っ…はぁ…もぅ…ひどいっ…」
急激に上がってしまった身体の熱を持て余し、潤む瞳でキッと信長を睨んでみせるが……
「ふっ…そんな蕩けた顔で言われてもな。もっと欲しい、と書いてあるぞ?」
指先で頬をチョンっと突かれてしまい、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「っ…信長様の意地悪っ…そんな顔、してないです…」
「ほぅ、そうか?ならば、戯れはここまでにしておこうか」
ニヤリと意地悪げに笑われたかと思うと、背後からぎゅうっと抱き締められ……信長様はいきなり少し強めに手綱を引いたのだった。
「っ…きゃあっ!」
強く手綱を引かれた馬は、追い立てられるかのように足を早める。
今にも振り落とされそうな勢いで走り始めた馬にも一切動じることなく、馬上で信長は愉しげに口の端を緩めていた。
「やっ、嘘っ…いやっ…止めて、信長様っ!早すぎますっ…」
信長の逞しい腕に支えられているとはいえ、早駆けする馬の背で身体を揺さぶられては気が気ではない。
「ははっ!朱里、俺にしっかり身体を預けておれ。振り落とされるなよ!」
焦る朱里にはお構いなしに、信長は珍しく声を上げて愉しげに笑う。
(もぅ!自由すぎます、信長様……でも、何であれ、この旅を楽しんで下さっているのなら…いいの、かな…?)
信長様は、いつだって自信たっぷりで余裕があって…揺るぎない御方だ。
そんな信長様が、夜ごと悪い夢にうなされているだなんて、何か心の内に秘めた憂いがあるに違いない。その憂いを取り除いて差し上げたい…旅に出たのはその一心からだった。