第15章 赦す者 赦される者
「う〜ん、いいお天気で良かったですね、信長様!」
馬上で眩しげに空を見上げる朱里は、その空に浮かぶ太陽の光のようにキラキラと輝く笑顔を見せている。
澄み渡る青空には雲一つなく、陽の光が燦々と射していた。
(天気が良いというだけで、これほどの笑顔になれるとは…)
「貴様はやはり面白いな。晴れの日がそんなに嬉しいのか?」
揶揄うように背後から顔を覗き込む信長に、朱里はふふふっと愉しげな笑い声を上げる。
「嬉しいですよ。せっかくの信長様との旅ですもの、お天気が良いと楽しい気分がもっと楽しくなります!」
「そういうものか?」
(楽しさの度合いなど考えたこともなかったが…朱里が言うとそんな風に思えてくるから不思議だ)
朱里はいつも、俺が思い付かぬようなことを考える。
予想を裏切られる、それが嫌ではなく、寧ろ心地良くもある。
「信長様とこうして二人きりで旅をするのは、久しぶりですね」
「ああ、尾張へ行くのは祝言を挙げた年以来だな。此度は忍びの旅ゆえ、城には寄らんがな」
「ふふ…御家老様達、信長様が来られてたって知ったら、きっと凄く残念がられますよ?」
「………年寄りどもの相手は面倒だ。煩い小言を聞いてやるほど、俺は暇ではない」
「まぁ…信長様ったら、そんなこと仰って…」
憎まれ口を叩きながらも、信長が古参の家老達を蔑ろにしていないことは知っていた。
信長の政の中心が尾張から美濃、そして安土へと移っていく中で信長自身が直接訪れる機会は減っていたが、織田家にとって尾張が重要な地であることに変わりはなく、古老達に信頼を置いているからこそ、その地を任せているのだった。
世間からは、鬼や魔王と呼ばれて恐れられる信長だが、民や家臣達へ向ける心の目は優しく、時には非情と思われるような決断をすることもあるが、本心から冷たい人ではないのだ。
(信長様が冷たい人だと誤解されるのは辛い。本当の信長様を皆にももっと分かってもらいたいんだけどな……)
「………何を考えている?」
急に黙り込んで俯いてしまった朱里の顎を指先でクイッと上げて顔だけ自分の方へ向けさせた信長は、唇が触れそうな距離で問いかける。
「っ…信長様っ…危ないですよ…前、見て下さ、い…」
信長の熱い吐息が直にかかり、朱里の唇は震える。