第14章 朝までずっと
「朱里、そのままでよいから、貴様はその書棚の後ろにでも隠れておれ。秀吉に説教されたくはないだろう?彼奴の叱言は俺が聞いておいてやるから、貴様は隠れておればよい。隙をみて部屋へ戻れ」
「信長様っ……」
(うぅ…優しい。意地悪なんて言ってごめんなさい…)
信長様の申し出をありがたく受けることにした私は、乱れた着物の前を押さえながら書棚の裏へと身を隠したのだった。
信長の許可が出て扉を開けた秀吉は、転がるようにして室内に入ってくると、床に胡座を掻いて座っている信長を見て息を呑む。
「御館様!これは一体どういうことですか?何故このようなところに…まさかここで、夜を明かされたのですか?」
「そうだ。貴様のせいだぞ、秀吉」
「はぁ?な、何を……俺はちゃんと声をかけてから、鍵閉めましたよ?いらっしゃるなら、言って下さったらよかったじゃないですかっ!」
「……………」
「御館様っ!」
「大声を出すな。まったく…こんな固い床で一晩寝たゆえ、身体が痛くて堪らん」
「そ、それは一大事。今からでもお部屋でお休み下さい。今朝は軍議も遅らせましょう。ところで……朱里はいないのですか?部屋にも天主にも姿が見えませんでしたので、てっきりご一緒かと……」
秀吉さんがキョロキョロと書庫の中を見回し始める気配に、私は息を潜めて身体をきゅっと縮めた。
(やっぱり秀吉さんって鋭いかも…さすがに信長様のお側に仕えるだけあるな)
「朱里は一緒ではない。貴様のせいで、昨夜はこんなところで寂しくひとり寝だ。どうしてくれる?」
「な、何を仰って…」
顔を赤らめる秀吉さんを無視して、信長様は私の隠れている方へチラリと妖艶な流し目を送る。
秀吉さんに気付かれないように口元を緩めて悪戯っぽい笑みを浮かべる信長様はひどく愉しそうだった。
(もぅ…寂しくひとり寝、なんて…嘘ばっかり。っ…あんなに激しかったのに……って、もぅ…思い出しちゃう…)
昨夜の情事の激しさが思い出されて、身を潜めているという状況なのに、身体の奥が疼いて仕方がなかった。