第2章 百日(ももか)の祝い
翌日の昼下がり、私は城門の前まで出て、義母上様の輿が来るのを今か今かと窺っていた。
信長様には、城内で待てばよい、と言われ呆れられたけど、居ても立っても居られなくて出てきてしまったのだ。
やがて遠くの方に、ゆっくりとこちらへ向かってくる一行の姿が見えた。
早る気持ちを押さえて待っていると、緩々と歩んできた一行が城門前に辿り着き、輿から一人の尼姿の女人が降り立った。
落ち着いた上品な趣の召し物は、決して派手ではないのに、何となく存在感があり、信長様に似た切長の涼しい目元が印象的だった。
「義母上様っ!」
「…まぁ、朱里殿っ…わざわざ出迎えに来てくれたのですか?
身体は…大事ないのですか?子を産んですぐは無理をしてはいけないのですよ」
優しく慈愛に満ちた義母上様の眼差しに、じわっと胸の内が熱くなる。
「っ…ありがとうございます…身体はすっかり元どおりなので大丈夫ですよ。義母上様もお元気そうで何よりです。長旅でお疲れでございましょう…さぁ、どうぞ中へ…信長様もお待ちです」
「信長殿が……」
信長様の名を聞いて、嬉しそうに少し口元を緩められる義母上様
(お二人がもう一度会える機会ができてよかった…結華は、信長様と義母上様をも結びつけてくれたんだわ…)
義母上様と共に城内へ入り、用意していた客間へご案内する。
すぐにでも信長様や結華に会って頂きたいけれど、長旅でお疲れであろう義母上様に無理をさせてはいけない。
「義母上様、こちらでゆっくりなさって下さいね。信長様には、義母上様がお着きになったこと、もうお伝えしてありますので…」
「ありがとう…では少しお話でもしながら待っていましょうか…」
「っ…はいっ!」
『遠い昔の話でもしましょうか……』
義母上様はそう言って、懐かしそうに目を細めながら、信長様の産まれた時の話を聞かせて下さったのだった………………