第2章 百日(ももか)の祝い
「明日は久しぶりに義母上様にもお会いできますね」
「ん?ああ…そうだな…」
明日は、信長様の母上様である報春院様が、伊勢より、この安土にいらっしゃることになっている。
明後日は、結華の【百日(ももか)祝いの日】であり、そのためにわざわざ来てくださるのだ。
義母上様にお会いするのは、信長様との祝言の報告のために伊勢を訪れて以来であり、産まれた結華に会ってもらうのは、これが初めてになる。
「約束……やっと果たせますね」
「ん……」
幼い頃からの深いわだかまりのせいで、ずっと疎遠になっていた信長様と義母上様は、私達の伊勢国訪問を機に、すれ違っていたお互いの想いを交わし合い、少しずつ離れていた距離を取り戻し始めたのだった。
信長様は伊勢を経つ際に、義母上様に仰ったのだ。
「子ができたら抱いてやってほしい」と………
その約束を明日、ようやく果たせる。
義母上様に信長様の御子を抱いて頂けるのだ。
「……朱里…結華を産んでくれたこと、感謝している。貴様は俺に……かけがえのない宝を授けてくれたのだ」
「っ…信長様っ…それは私も同じです。信長様と結華と、家族になれて…私、幸せです。私に結華という宝物を授けて下さって、ありがとうございます」
「っ…朱里っ…」
信長様の、私を抱き締める腕に力がこもる。
私も、信長様に全てを委ねるかのように、その逞しい身体にぎゅっとしがみついた。
その夜は、互いに寄り添い合って眠りについた。
身体の交わりはなく、お互いに抱き締め合って朝を迎えただけだったけれど、濃密に愛を交わした翌朝のような充足感が得られた夜だった。
心と心が、奥深いところで繋がっているような感覚
身体の繋がりだけでは得られない満たされた気持ち
子供を持つ、家族になる、ってこういうことなんだろうか……そんな風に思えて、また一つ、信長様との絆を実感できたような気がしたのだった。