第14章 朝までずっと
(こんなところ、人に見られたら……)
信長様とは恋仲で、祝言の約束もしているとはいえ…人の目があるところで触れ合うのはやはり気が引ける。
信長様は、そんなことは全く気にならないみたいで、いつでも所構わずなのだけれど……
二人きりとはいえ、いつ何時、人が来るか分からない状況に焦っていると………
廊下を歩く人の足音が聞こえてきたのだ。
「ちょっ…信長様、誰か来ますよ…」
「……………」
「やだっ…離れて下さいってば!んっ…ちょっと、何で隠れるんですか!?」
「うるさい、黙れ」
信長様は入り口から見えぬところまで私を引っ張っていき、壁際にぐいっと押し込むと、唇を塞ぐように指先を押しつけた。
「んっ!?んんーっ!」
『静かにしておれ』
声を出さずにそう言うと、身動きが取れないように私の身体を強く抱き竦めた。
ーガラガラッ…
入り口の引き戸が開く音に、思わず息を飲む。
続けて、ギシッと床を踏む音がして誰かが書庫の中へと入ってくる気配がした。
「……誰かいるのか?おかしいな、話し声が聞こえたような気がしたんだが……誰もいないのか」
(っ…この声、秀吉さんだ…ど、どうしよう…)
秀吉さんは、私達が隠れているすぐ近くの書棚の前まで歩いてきてキョロキョロと周りを見回している。
信長様に拘束されていて声が出せないとはいえ、微かな息遣いが秀吉さんに聞こえてしまうのではないかと気が気ではない。
ゴクリと唾を飲む音がやけに大きく聞こえてしまい、慌てて息を潜めた。
秀吉さんは書庫の中をある程度見回ってから、誰もいないと判断したらしく、入り口の方へと戻っていった。
(っ…よかった、見つからなくて)
ーガチャンッ
(えっ?え?ええぇーっ…嘘っ!)
秀吉さんは書庫の入り口へと戻ると、外へ出て…そのまま書庫の鍵を閉めてしまったのだ。
南京錠が閉まるガチャリと無情な音が聞こえた後、遠ざかっていく足音に声を上げることもできず、呆然と立ち竦む。
「の、信長様っ…あのっ…か、鍵が…」
「閉まったな」
強く抱き締める腕を必死で押し返して、動揺しながら訴えた私に対して、信長様は不自然なほどに冷静に返す。
(何で!?何でこんなに落ち着いていらっしゃるの??)