第14章 朝までずっと
その日、私は安土城の広大な書庫で一人、書物を選んでいた。
「う〜ん、これかなぁ。これは…ちょっと違う気もするなぁ。
はぁ…こんなことなら家康に聞いてくればよかった…」
最近になって始めた怪我の治療の勉強のために、医術の本を借りようと書庫へとやってきた私は、広すぎる書庫の中で途方に暮れていた。
安土城の書庫は、私のいた小田原城の書庫などとは比べものにならないぐらいに広く、信長様が各地から取り寄せられた様々な分野の書物がぎっしりと所蔵されており、分野ごとに丁寧に分類されていた。
異国の書物も数多く取り揃えられており、城主である信長様も忙しい合間を縫ってよく書庫へ行かれていた。
医術の本といっても、その種類は多岐に渡っていて蔵書数も多く、素人同然の私にはどれが良いのか正直よく分からない。
書庫へ来てかれこれ数刻経つが、いまだ決めかねて書棚の前でウロウロしているのだった。
もう遅い時間だし、今日は取り敢えず一冊だけでも選んで戻ろうかと、書棚に手を伸ばしかけた時………
「………そこにおるのは、朱里か?」
「信長様っ!?」
立ち並ぶ書棚の陰からひょっこり姿を現したのは…信長様だった。
「部屋におらぬと思ったら、ここに来ていたのか」
「あ、はい…医術の勉強で本をお借りしようと思って。信長様はどうなさったのですか?
今日はもう、天主へお戻りかと思っていました」
「今から戻るところだ。領地からの報告で気になる点があったのでな、詳しく調べるために資料を取りに来たのだ。
貴様は随分と熱心なことだな……どれぐらいここにおる?身体が冷えているぞ」
さっと手を取られると、そのまま、あっと思う間もなく引き締まった筋肉質な胸元へと引き寄せられた。
ぎゅっと腕の中へ閉じ込められる。
冬場の書庫は冷んやりと寒く、長居をしていた私の身体は気付かぬうちにすっかり冷え切ってしまっていたらしい。
「の、信長様っ…」
急な抱擁に戸惑いを隠せず身を捩るが、信長様は離してくれない。
「こんなところで…ダメです。誰か来たら……」
「こんな遅い時間だ、誰も来ぬ。それより貴様、こんなに冷えて…風邪でも引いたらどうするつもりだ?」
「やっ…耳っ…息、吹きかけないでっ……」
抱き締められたまま耳奥に熱い吐息を注ぎ入れられて、腰の辺りがズクリと甘く疼いてしまう。