第13章 肝試し
(ん…冷たっ…なに…?)
額に冷んやりと冷たい感触を感じて、落ちていた意識が緩々と浮上する。
閉じていた目蓋をゆっくりと持ち上げると、見慣れた天井が目に入り、ここが天主の信長様の寝所だと分かる。
「……目が覚めたのか?」
信長は、褥の上に胡座を掻いて書物を読んでいたが、朱里が目覚めた気配に、手にしていた書物を閉じて目線を上げた。
「信長さま…あのっ、私……」
額の上に乗っていた冷えた手拭いに触れながら身を起こそうとする朱里を、信長は軽く制して、ちゅっと唇を重ねる。
「横になっておれ。まだ夜明けまで間がある」
優しげに頬を撫でる手の感触を心地良く感じながら、私は目覚める前の記憶を手繰り寄せる。
(そうだ、私、肝試しの途中で倒れたんだ……)
最後に見た光景が思い出されてゾクリと身体が震えてしまい、思わず両手で身体を抑えていた。
「如何した?冷たすぎたか?」
額の上の手拭いを取り上げて盥の水の中に放り込むと、信長様が私の顔を覗き込む。
盥の中には水とともに氷が幾つか入れられているらしく、カランっと涼しげな音を立てた。
「あっ…大丈夫、です」
少し掠れた声が出てしまい、慌てて咳払いをする私に、信長様は枕元の水差しから湯呑みに水を注いでくれた。
さり気ない気遣いが嬉しくて、ふわりと心が温かくなる。
「ありがとうございます。あの、肝試しの方は…」
「あぁ…倒れた貴様をそのまま天主に連れ帰ったゆえ分からんが…あのままお開きになっただろうな」
「ごめんなさい…私のせいで」
「いや、貴様が気に病むことはない。やり過ぎたのは彼奴らの方だしな」
「え?」
そこで私は、この肝試しが政宗が私を驚かせる為に仕組んだ仕掛けだということを知ったのだ。
信長様自身も、具体的にどんな仕掛けがなされているのかご存知なかったらしい。
「信長様にも内緒だったなんて、政宗ったら、随分手の込んだことを……」
呆れるやら感心するやら…もう言葉も出ない。
「くくっ…俺もまさか、貴様が気を失うとは思わなんだ。久しぶりに血の気が引いて涼しくなったわ」
「やっ、もぅ…信長様ったら…でも、本当に怖かったんですよ…」
(本当にお化けが出たと思ったんだから…)