第13章 肝試し
「す、すみません…」
「っ…暗くてよく見えんな」
私の顔もきっと真っ赤になってるから、暗くてよかったかも。
信長様は、自分の上に乗ったままの私の身体を起こそうと手探りで触れてくる。
本当に見えておられないのか、大きな手が探るように身体中を弄り始める。
「んっ、擽ったいっ…ちょっ、ちょっと…信長様っ、どこ触ってるんですか??」
暗闇の中、伸びてきた手がいきなりグッと掴んだのは……
「………柔らかいな」
(そ、それは胸ですっ!柔らかいに決まってるでしょ…)
グニグニといやらしく揉み始めようとする手を必死に剥がし、身体を起こすと、目を瞬いて暗闇を凝視する。
暫くすると、暗さに目が慣れてきたようで、灯りがなくても何とか室内の様子が分かるようになった。
「信長様、早く戻りましょう」
目的は果たしたのだから、こんな恐ろしいところには一刻たりともいたくなかった。
「ふっ…もう少し貴様と遊んでいたいところだがな」
「もぅ!よくこの状況でそんなこと言えますね…」
さっさと戻ろうと、来た時とは反対に信長様の手を引いて入り口へ向かいかけた私は、突如吹いてきた、ぞわりと肌を泡立たせるような生温かい風に顔を嬲られて、ぎくりと足を止めた。
(なに…風なんて、どこから吹いて…)
風が吹き込むようなところはない。しかも、こんな…この世のものとは思えない邪で気味の悪い風が吹くなんて……
見てはいけない…見ては、イケナイ…
頭では見ることを拒否しているのに、私は風を感じた方向にゆっくりと顔を向けてしまった。
そこで私が見たものは………
鮮やかな赤い打掛を引き摺って歩く、青白い顔の女の姿だった。
「っ…きゃあああぁぁ……」
「朱里っ?」
信長様が焦ったように私の名を呼ぶのを聞きながら、私は足元から崩れ落ちるように意識を失った。