第13章 肝試し
「案ずるな。俺が共におるのだ、怖いことなど、何一つない」
ちゅっ、ちゅっと啄むような口付けが、目蓋の上から、耳を押さえていた手の上へとするすると移動していく。
信長様の唇が触れたところが、熱を与えられたかのように熱く火照ってくる。
物悲しい琵琶の音色はまだ聞こえていたが、それも気にならないほどに、唇の熱さに溺れてしまう。
ひとしきり優しく口付けられて、落ち着きを取り戻した私の手を引き、信長様は迷いのない足取りで歩き始める。
信長と朱里が通り過ぎた廊下に面した部屋の中には、政宗が琵琶を抱えて座っていた。
「う〜ん、これは、上手くいった…のか?ただイチャイチャしてるだけにも見えたけどな」
障子越しだったので、朱里の怖がる様子を直接見ることはできなかったが、二人の影が重なって、いい雰囲気になったのは何となく分かった。
(まぁ、怖がる朱里を目の前にして、あの信長様が手を出さないわけねぇよな…あいつ、可愛いしな。何故だか、妙に守ってやりたくなるんだよな……)
怪談話の時に見た朱里の泣き出しそうな顔を思い出し、政宗の頬は柔らかく緩んでいた。
「信長様…あの、本当に入るんですか?」
いよいよ目的の部屋の前まで来てしまい、私の心の臓は聞こえてしまうのではないかというぐらい激しく乱れ鳴っていた。
そんな私にはお構いなしに、あっさりと襖を開けようとする信長様の手を慌てて押さえる。
「貴様、今更何を言う。ここまで来ておいて、入らぬ道理があるか。さっさと行って戻るぞ」
「ええっ……」
(ゔゔっ…信長様と一緒でも、やっぱり怖いものは怖いっ…)
スパンッと勢いよく襖を開けた信長様は、一歩進んで、持っていた手燭を掲げて真っ暗な室内の様子を照らし出した。
「ひっ…ゃああぁ…出たぁ…」
灯りに照らされた先にぼんやりと見えたもの、それは……長い髪をダラリと垂らした青白い顔の女の人の顔…口からは真っ赤な血が流れていた。
(お化け!?お化けなの!?いやぁ……)
「信長様っ、お化け…」
「朱里、落ち着け。よく見ろ、あれは絵だ」
「………絵?」
震える私の身体を片手で抱き寄せた信長様は、手燭の灯りをもう一度掲げてみせる。