第13章 肝試し
実は武将達は、順番に肝試しに行きながらも、政宗の指示で道中に様々な仕掛けを施していた。
全ては朱里を驚かせるための企みだった。
朱里の順番が最後になったのも政宗の企みだったのだが、怪談話の段階であれほど怖がるとは正直思わなかった。
信長の怪談話の内容が城の話だということも聞いていなかったし、二人が一緒に行くことになったのも予想外だった。
(ま、仕掛けは準備万端だ。なるようになるだろ)
だが、何事にも前向きな政宗らしく、予想外の展開にも動じることはなかったのだった。
いつもなら廊下の所々に行燈が置かれ、歩くのにも支障がない城内も、今宵は灯りもなく真っ暗で静まり返っている。
広間にいた時は分からなかったが、外は雨が降っているらしく、ざぁざぁという雨音が聞こえていた。
真っ暗な廊下を、手燭の灯り一つで二人で歩む。
歩くたびにゆらゆらと蝋燭の灯りが揺れるのが、何とも頼りなく心細かった。
雨粒を含んだ真夏の生温い風がじんわりと肌を嬲り、胸苦しい気分になる。
「信長さま…」
先を歩く信長様の背中を見つめながら、堪らず声を掛けた。
「の、信長さま…待って」
「ん?」
「あの…何か、音がしないですか?」
「音?いや、何も聞こえんが…外の雨音ではないのか?」
振り向いた信長様は怪訝な顔をしながらも、耳を澄ませる。
「えっ…聞こえないですか?これ、この水音みたいな…」
ーピチャン ピチャンッ ピチャッ…
「っひゃあぁ…!」
いきなり首筋に冷たい雫が伝い落ちてきて、身体がビクッと跳ね上がる。
(な、何…何なの!?)
「いやぁ…信長さまぁ…」
得体の知れない水滴があまりにも恐ろしくて、思わず信長様の腕にしがみついてしまっていた。
「上から、首に何か…落ちて…うう…」
私の訴えを聞いた信長様は、手燭の灯りを天井に向けて何やら見ておられたが、やがて、フッと小さく息を吐く。
「………雨漏りだな」
「へ?」
「この上の屋根が雨漏りしておるようだ」
「雨漏り…ですか?本当に?」
(絢爛豪華な安土城が雨漏り…?まだ新しいお城だと聞いてるのに、雨漏りするなんて……本当なの?)
天井を確認しようと見上げるも、信長様が既に手燭を下ろしてしまっていた為、暗くてよく分からなかった。