第13章 肝試し
(うぅ…口にするのも怖い…)
「あぁ…見た。赤い打掛を着たその女は、ジッと物言いたげに俺を見つめて…消えたのだ」
信長様の目に、蝋燭の火が反射し、キラリと妖しく光る。
「それ以降、城の奥のあの部屋には誰も近づかぬようになり、今では開かずの間となっているのだ…………さて、では俺も行って来るとしようか」
語り終わり、蝋燭を一気に吹き消して迷うことなく立ち上がった信長様の袖を、私は慌てて押さえる。
「ま、待ってっ、待って下さい、信長様っ!あの…その部屋ってもしかして……」
「あぁ、今から行くところだ」
ニヤリと愉しげに笑う信長様とは正反対に、私は衝撃で目の前が真っ暗になりそうだった。
(無理無理っ…絶対無理っ!信長様の後、最後は私…駄目だ、一人でなんて行けるはずがないよ!)
「信長様、待って…行かないでっ…お願いします、私と一緒に行って……」
「何だと?」
「この後、そんな恐ろしい部屋に私一人で行くなんて無理です…ね、政宗、いいでしょ?私の怪談話はなしにして信長様と二人で行かせて…」
ここで置いて行かれたらお終いだ、と縋るように訴える私に、武将達は顔を見合わせる。
「仕方ねぇなぁ、じゃあ、特別だぞ?」
「ありがとう、政宗…」
(よかった…信長様が一緒なら安心だわ)
ヨロヨロと立ち上がった私の腰を、信長様の逞しい腕が引き寄せる。
「貴様、大丈夫か?一人で歩けぬのなら、抱いて行ってやってもよいぞ?それでも構わんだろう、政宗?」
「はいはい、もう好きにして下さいよ」
「やっ…大丈夫です。歩けますから」
(さすがに皆の前で抱っこは恥ずかしい…)
さっさと抱き上げようとする信長様の腕をやんわりと押し戻すと、ムッと不満そうな顔をされてしまった。
「チッ…つまらん」
ボソッと不満を漏らしつつ、もう既に歩き出している信長様の後を慌てて追いかけて部屋を出た。
「………行ったな」
「よし、じゃあ手筈どおり先回りするぞ。お前ら、ちゃんと仕掛けしてきたんだろうな?」
信長と朱里が廊下を歩いて行くのを確認して、政宗はニヤリと不敵に笑う。
「小娘が御館様と一緒に行くことになったのは計画外だったが…これはこれで面白いことになりそうだな」
「おい、光秀、お前、御館様の御身に危険が及ぶような仕掛け…してないだろうな?」