第13章 肝試し
「………誰が物の怪だ。ほら、ちゃんと足は二本あるぞ?」
「光秀さんっ!」
笑いながら入ってきた光秀さんは、自身の足をぽんぽんと叩いてみせる。
「……足は二本でも、口はいくつあるか知りませんけどね」
「くくっ…それは俺自身も分からんな」
蝋燭の灯りに照らし出された光秀の顔に、妖しい笑みが浮かぶ。
「光秀さん…遅かったですけど、大丈夫でした?」
「………いや、それがまぁ…色々あってな」
光秀は、悩ましげに眉根を寄せ、はぁっとわざとらしい溜め息を吐いてみせる。
「な、何ですか!?色々って…?」
「色々…だ。まぁ、朱里も行けば分かる」
(もうヤダ…だから、行きたくないんだってばっ……)
意味深な光秀さんに心を揺さぶられ、不安を煽られた私にはお構いなしに、怪談話の続きが始まる。
次は家康で、語ったのは『耳なし芳一』の話。
知ってる話だったけど、何回聞いてもやっぱり怖いものは怖い。
家康が無表情で語るものだから、逆に迫力が増して怖かった。
家康の次は、三成くん、秀吉さん、と続いたのだけれど、二人の話は『河童』や『座敷童子』といった言い伝えのような不思議な話だったので怖くはなく、私も何とか落ち着きを取り戻せた。
「さて、では次は俺の番だな」
信長様が、持っていた鉄扇をパチリと閉じて不敵に口角を上げる。
(うっ…何か嫌な予感がする)
「俺の話は…この城の話だ。朱里はこの安土の城をどう思う?」
「え?お城、ですか?どうって言われても…日ノ本一の見事なお城だと思います。こんなに豪華で立派なお城は見たことがないですから」
「そうだ、俺はこれまで誰も見たことがないような城が作りたかったのだ。だから完成までには色々あった。例えば、この城の石垣には大小様々な石が積まれているが、あれは実は最初、何度積んでも上手く積み上がらなかったのだ」
「そうだったんですね」
(信長様のお話は安土城の築城秘話?怖くないけど…何故、今、その話?)
信長様の話の意図が分からず、曖昧な返事をする私を見つめる深紅の瞳がキラリと妖しく光る。
「策を練って何度やっても上手くいかなくてな。挙げ句の果てには人足どもに怪我人まで出る始末だ」
「まぁ、怪我をされた方まで…」
「工事が上手く進まぬ時は、どうすると思う?」
「えっ?う〜ん、お祓い、するとか?」