第13章 肝試し
俯いて話をしていた光秀さんが、いきなりガバッと顔を上げる。
その顔が、恐ろしい般若の顔になっていたのだ。
「いやぁ〜、怖いっ怖いぃ…光秀さん、やだぁ…」
ひぃーっと後ずさり、思わず隣の信長様にしがみつく。
「落ち着け、朱里。ただの面だ」
すぐさま、ぎゅっと抱き寄せてくれた信長様は、落ち着き払った冷静そのものの声で言う。
「へ………お面?」
蝋燭の火が揺れる薄暗い中、目を凝らして光秀さんを見ると、なるほど般若の面を被っているようだった。
だが、たかがお面でも十分怖かった。
「大丈夫か、朱里? 光秀、お前なぁ…悪ふざけが過ぎるぞ」
秀吉さんが苦々しげな顔で光秀さんを睨むが、光秀さんは全く悪びれる様子もなく、ニヤリと不敵に笑う……般若の顔のままで。
「臨場感を出そうと試みたまでだ。小道具禁止、とは聞いてないぞ?」
「よくやった、光秀。褒めて遣わす」
私に抱きつかれたままの体勢で、信長様が満足げに笑うので、何だか恥ずかしくなってしまった。
「では、俺も行ってくるとしよう」
颯爽と立ち上がった光秀さんは、何事もなかったかのように部屋を出て行った。
(いやいや…何なのよ、みんな。まだ二人目なのに…こんなに怖すぎる話ばっかりじゃ、心の臓が保たないよ!)
武将達による怪談話の、あまりの完成度の高さに、始まったばかりの肝試しに耐えられる自信が、ガラガラと音を立てて崩れていく気がした。
ゆらりゆらりと蝋燭の火が揺れる。
風もないはずなのに、時折、消えそうに炎が揺らぐのが不気味で堪らない。
「……ねぇ、秀吉さん。光秀さん、遅くない?」
部屋を意気揚々と出ていった光秀が、なかなか戻ってこないのだ。
「確かに…政宗は、もっと早く戻ってきてたよな。ったく…光秀の野郎、勝手にふらふらしてるんじゃないだろうな…」
苦々しく顔を顰める秀吉さんは、光秀さんが寄り道でもしていると思っているらしかったが、私は何か良からぬことでもあったのではないかと不安で、悪い想像ばかりしてしまっていた。
「どうしよう…何かあったのかもしれないよ?本当に物の怪が出たりとか…?」
「光秀さん相手じゃ、物の怪の方が逃げ出すでしょ」
「違いない。彼奴が物の怪みたいなもんだしな」
家康と秀吉さんは珍しく意見が一致したらしく、うんうん頷き合っている。