第13章 肝試し
そう時も経たずに政宗は戻ってきた。
「は、早かったね、政宗」
「そうか?こんなもんだろ。じゃあ、次行くぞ。次は…」
「俺が行こう」
次に名乗りを上げたのは、光秀だった。
『ある国に、一人の絵師がいた。その男は主に人物画を好んで描いていたのだが、その男が描く美人画は、特に定評があった。
やがて男の描く絵は、近隣諸国でも有名になり、その評判は京にも届くようになった。
有名になった男の下には、自分の絵を描いて欲しいと、多くの女が尋ねて来るようになり、真面目な男はせっせと美人画を描き続けたのだった。
ところが数を描けば描くほどに、男の描く女の絵はどれも似たような印象のものになっていく。
あんなに評判が高かったのが嘘のように、世間から酷評されるようになった男は、酒に溺れ、鬱々と日々を過ごすようになってしまった。
そんなある日、男は偶然一人の変わった絵師と出会う。その絵師が描くのは“無惨絵”と呼ばれるもので、生首、血飛沫、血みどろの殺戮など、残酷極まりない絵ばかりだったが、不思議と臨場感があり惹きつけられるものだった。
聞けば、絵師は実際の死体を見る為に戦場や処刑場、墓場などへも出向いて筆を取っているのだという。
男もまた無惨絵の魅力に取り憑かれたように一心不乱に描き始めるが、男が描く絵はどうにも臨場感が欠けていて面白くない。
男は絵師に教えを請おうとしたが、“この技法は門外不出である”と言って教えてはくれない。
悩んだ末に、男は絵師の仕事をこっそり盗み見ることにした。
ある夜、男は秘かに絵師の工房に行き、障子の隙間からこっそりと中を覗き込む。
絵師は背を向けて、一心不乱に何事かしているようだ。
ーギリッ ゴリッゴリッ グシャッ…
“何だろう、この音は…何か固いものを切るような…それから、肉が引きちぎられるような鈍い音も…”
絵を描いている音とは程遠い、聞こえてくる生々しい音に、男は激しい胸騒ぎを覚える。
“見てはいけない…見るな…”
頭の中で激しく鳴り響く警鐘に目眩を覚えて、グラリと男の身体が揺れた。
ーガタンッ!
しまった、と思った時には、もう遅かった。
ゆっくりとこちらを振り向いた絵師の顔は、目は吊り上がり、口は大きく裂けた、恐ろしい般若の顔だった。
手には血みどろの包丁を握っている。
“見 た な〜”
「ぎゃああぁ……」