第13章 肝試し
「あ、あの、信長様…城の最奥の部屋って…」
隣に座って退屈そうに鉄扇を弄んでた信長様に、恐る恐る話しかけると………
「仏間の隣の、そのまた奥の奥の部屋だ。あれは…開かずの間、だな」
(やっぱり!あの部屋、昼間でも薄暗くて、何となくジメジメしてる感じもするし、気味が悪くてまだ入ったことなかったんだけど……開かずの間って何?…どういうこと!?)
さぁっと血の気が引いて青ざめる私に、信長様はニヤリと不敵な笑みを向ける。
「まぁ、行けば分かる」
(っ…分かりたくないっ…)
「手順が分かったんなら始めるぞー。まずは俺からな」
今宵の肝試しの主催者である政宗は、意気揚々と話し始めるのだった………
『昔、あるところに一人の武士がいた。その武士は戦に負け、仕える主を失った浪人だったが、めっぽう刀の腕が立つ男だった。
そして男の持つ刀は、名刀と言われるもので、それを欲しがる者も数多いたのだった。
ある時、男は一人の大名に仕官を持ちかけられる。だが、仕官の条件は、男の愛刀を献上することだった。
“この刀は自分と生死を共にしてきた大事な刀だ。譲るわけにはいかない”
そう言って、男は仕官を断った。
怒った大名は、男を罠にかけて刀を奪い、あろうことかその刀で男を斬ってしまった。
不思議なことに、斬られた男の首からは一滴も血が流れなかったという。
大名は奪った刀を自慢げに床の間に飾っていたんだが、毎夜、その刀から不思議な音がし始めるんだ。
ーピチャン ピチャン ピチャン…
音は水音のようだったが、朝になって見ても不思議なことに刀は少しも濡れていない。
ーピチャン ピチャン ピチャ……
不審に思った大名は、ある夜、音の正体を確かめる為に刀の様子を見に行くんだ。
ーピチャン ピチャ ピチャ……
今宵もまた水音が聞こえる。
大名が恐る恐る行燈の灯りを近付けて見たものは………
刀から滴り落ちる、真っ赤な血だった。
ピチャピチャと流れ落ちる血で、大名の足元はあっという間に血の海になり、腰を抜かして座り込んだ大名の首に、まるで命あるもののように蠢いた刀が勢いよく突き刺さった。
その瞬間、断末魔のような叫び声が上がる。
ーぎゃあああ……
それは大名の声だったのか…はたまた刀の持ち主だった男の声だったのか……知る由もない……』