第13章 肝試し
「そんなに暑いんだったら、『肝試し』でもするか?」
氷を口に運びながら、盥の水を足でパチャパチャと掻き混ぜて遊ぶ私を、呆れながら見ていた政宗は、ニヤリと笑いながら言う。
「へ?肝試し??やだ、何それ?」
「毎日退屈してんだろ?怖い話でも聞いて、さぁーっと涼しくなろうぜ」
「やだっ!そんなので涼しくなるわけないじゃないっ!」
(怖い話!?怖い話って何?お化けとか…絶対ヤダ!)
「よし、そうと決まったら信長様に話をしてくるか…」
嬉々として、立ち上がり、さっさと部屋を出て行こうとする政宗。
「政宗っ!勝手に決めないでよ。肝試しなんて、絶対ダメだからね!」
「はいはい…俺に任せとけ、お前を冷えっ冷えにしてやる」
「ちょ、ちょっと……」
呆然とする私を置き去りにして去って行く政宗を見送りながら、削り氷で冷えた私の頭は、更にズキズキと痛み出したのだった。
(怖い話なんて無理!そんなので冷え冷えになんてなりたくないよ!)
それから数日後の夜
真っ暗な安土城の大広間には、ゆらゆらと妖しく揺らめく百本の蝋燭の灯りが灯されていた。
蝋燭の周りには、車座になって座る武将達と朱里の姿があった。
「よーし、じゃあ、今宵の肝試しの手順を説明するぞー」
神妙な顔で座る武将達をくるりと見回した政宗は、まるで夕餉の献立を披露するかのような愉しげな口調で話し始める。
(ゔゔぅ…なんでこんなことに…今もう既に、怖すぎるんだけどっ!?)
ゆらゆら揺れる蝋燭の火が、障子に奇妙な影を映し出しており、広間の中に不気味な雰囲気を醸し出している。
「今から順番に一人ずつ、怪談話をしてもらう。短い話でも、怖くなくても、まぁ、構わない。話し終わったら、蝋燭を一本吹き消すんだ。蝋燭は百本あるから、一晩に百の話をするのが本当なんだが…まぁ、この人数で百物語は無理だからな、一人一話ってことで…」
(一人一話ってことは、全部で七話か…それぐらいなら耐えられるかな…)
この最悪の状況に何とか耐えようと、ぐっと拳を握り締めた私に追い討ちをかけるかのように、政宗の無情な言葉が続く。
「で、蝋燭を消し終わったら、広間を出て城の最奥の部屋へ行き、部屋の中に置いてある小石を一つ取ってくるんだ。戻ってきたら、次の者が話を始める…これの繰り返しだ。簡単だろ?」
「………………」