第12章 武将達の秘め事③
「で?光秀さんは、どうなんですか?ここまで来て、自分だけ答えないっていう選択肢はないですよ」
家康の疑わしげな視線を受けても、光秀の態度はどこか飄々としていて愉しそうだった。
「もちろんだ。元々、俺が言い出した話だからな。俺は……そうだな、女の耳を弄るのが好きだな。舌先で耳の縁をなぞり、耳朶を喰めば、好い声で啼いてくれる。あぁ…耳元で卑猥な言葉を囁いてやるのも良いな」
ゾクリとするほど艶っぽい流し目を送ってくる光秀を見ていると、全員、完全に毒気を抜かれたようななんとも言えない気持ちになる。
光秀の手にかかれば、どんな女も易々と蕩けさせられてしまうのだろう……例えそれが、敵の間者であろうとも。
「言葉責めか…光秀らしいな。羞恥に身悶える女のカラダを喰らうのは、この上ない至福の瞬間よな。ほれ、このように…な」
光秀の話を面白そうに聞いていた信長は、網の上のアワビの焼き加減を確かめるように箸をグイッと押し付けると、溢れた汁をたっぷりと纏わせたアワビの身をパクリと頬張った。
信長の白い歯が、黒っぽく肉厚なアワビの身に喰らいつく。
歯を立ててひと口分噛み千切ると、弾力のある固くコリコリとした身の食感を感じる。
貝から出た汁も、芳醇で旨みたっぷりだ。
口元に付いた汁を、信長は赤い舌先でペロリと舐め取る。
その仕草はこの上なく妖艶で、皆に何とも言えない胸騒ぎを覚えさせた。
(っ…まるで、溢れる女の蜜を舐めるかのような…)
「美味いな。極上の逸品だ」
至極満足そうな信長につられて、武将達も目の前のアワビに箸を伸ばす。暫し無言で、極上のソレを食する。
「これは美味。歯を立てた時の、肉厚な感じが堪りませぬな。くくっ…御館様秘蔵の可愛らしいアワビの味には劣るやもしれませんがな…」
「ふっ…くだらぬ妄想はそこまでにしておけ、光秀。夜は長い。今宵は存分に飲み明かすぞ」
「はっ!」
今宵もまた夜が更けるまで、美味い料理に舌鼓を打ち、豪快に酒を酌み交わす。
理想の国づくりの話、戦術の話から、時に際どい艶話まで、武将達の話題は尽きない。
女が知らぬ、男だけの秘め事。