第12章 武将達の秘め事③
(くくっ…結局、御館様の艶話は聞けず終いだったな。上手くかわされた気もするが…まぁ、朱里を見ていれば、おおよそ分かるか)
光秀は、上座で豪快に盃を開ける信長を見ながら、ふっと口元を緩める。
御館様が、関東の北条家から半ば強引に連れ帰った美しい姫。
安土に来た当初は、人質のように縮こまって自分の居場所を見つけられずにいたようだが、最近では武将達や城の者とも打ち解けて、いつの間にやら信長とも恋仲になっていた。
人の出逢いとは分からぬものだ。
些細なきっかけで出逢った朱里を、御館様があれほどに気に入られ、激しい執着を見せられるとは、俺ですら思いも寄らなかった。
御館様は夜毎、天主へ朱里を召される。
翌朝、小娘の首筋には見事な紅い華が幾つも咲いているのだ。
自分のものだと言わんばかりに、わざと目立つ場所に付けておられるのだろう。
朱里をお傍に置かれるようになってから、御館様は人目を憚らず、独占欲を露わにされるようになった。
飢えた獣のように、毎夜、小娘の細首に喰らいついておられるのだろうか。
御館様の渇きを癒す存在が現れたことは、誠に好ましい。
(さて…今宵は御館様と朝まで飲み明かそう……小娘にひとり寝をさせるのは忍びないが…)
朱里の愛らしい笑顔を思い浮かべながらも、光秀は信長に酌をするために上座へとにじり寄るのだった。
今宵もまた夜は長い………