第12章 武将達の秘め事③
「っ…たまんねぇな、この動き…」
「あぁ、活きがよいな。まさに名器…」
「こらっ、光秀、め、名器とか言うな!破廉恥なっ…御館様の御前だぞ、口を慎め!」
「いや、なかなかに良い。これは、随分と喰い応えがありそうだ。くくっ…」
「なっ、御館様までそのようなことを仰られては困ります!天下人の威厳が…」
「固いことを言うな、秀吉。この場は今、我等しかおらん。無礼講よ」
威厳たっぷりに堂々と言い放つ信長を見て、秀吉は何とも情けない顔になる。
「秀吉、御館様もこのように仰せだ。今宵は、このいやらしいアワビを肴に、皆で艶話でもどうだ?」
光秀がニヤリと意味深な笑みを浮かべる。
「はぁ!?何、言い出すんですか、光秀さん。俺は嫌ですよ」
家康は心底嫌そうな顔をして光秀を睨む。
この面子で艶話など……何を暴露させられるか分かったものじゃない。
「まぁ、そう言うなよ、家康。面白そうじゃねぇか。で、何の話にする?」
政宗は、アワビの焼き具合を確かめているのか、身の中心部分に箸をグリグリと押し付けつつ、ニヤニヤと家康を見る。
押されたアワビは嫌がるように身をくねらせ、ジュワっと汁を溢れさせている。
「ふっ…アワビの具合も良いようだ。そうだな……では、自分が一番好きな女の悦ばせ方、というのはどうだ?」
「おい!光秀、お前なぁ…仮にも御館様に、そんなこと言わせられるかっ、馬鹿!」
「なかなかに面白い。……で?誰からいくのだ?」
「お、御館様ぁ……」
俄然乗り気になり、興味津々で身を乗り出す信長を見て、秀吉は慌てる。御館様にそんな話はさせられない。ならば自分が……
「っ…俺がっ…俺からいきますっ!」
「………」
「秀吉、お前……意外と好きか?こういうの」
「俺、秀吉さんがそんな人だとは思いませんでした」
「秀吉様、何事も先陣を務められるとはお見事です」
信長には探るような目で見られ、政宗にはニヤニヤ笑われ…家康には呆れた顔で見られ、三成には尊敬の眼差しを向けられて…秀吉はその居心地の悪さから、名乗りを上げたことを早くも後悔し始めていた。
(くっ…何でこんなことに…いや、しかし、これも御館様をお守りするため、俺が矢面に立たねばっ!)
決意を新たにグッと拳を握り締める秀吉に、光秀の無情な声が降ってくる。
「では、お前の手管を披露してもらおう」