第35章 33.※ブサイク大統領激裏
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「ああ、そうだ、その殴られて怯える顔だよぉ…、あの時、最後に逃げやがってよぉ…」
『──あ、…ああ…っ!?』
記憶の奥底、私の中のパンドラの箱。モノクロの嫌な記憶がじわじわと蘇り鮮やかに思い出されていく。その記憶の男は目の前の男と合致した。
こいつはかつて私が孤独で街を彷徨っていた頃の嫌な記憶を作った人物だった。
──研究所から逃げ出して少しした、路地裏生活をしていた頃。
『これで、よし…』
捨てられたダンボール、新聞、それから車から落ちたのだろう、座布団。拾ったものをかき集めて今夜寝る場所を整える。
路地裏で生活していると、私物ではないから無くなったり、捨てられたり、物を奪われる事がある。今日は昨日よりは温かく寝れそうだ、と座布団を見て思う。
洋服は、逃げ出した時のままの服で、ハルカという名札の代わりに77号と書かれている。路上生活で汚れた服は洗えていない。髪は肩ほどでボサボサだった。
私は狭い路地裏で一人、狭くて細長い空をぼうっと見ていた。
…お腹が空いたなぁ。
自由だ、注射もない。分厚い本を開いて行う勉強もない。苦い薬も飲まなくていい。四角い箱の中…窓のない、狭い世界ではなかった。
閉じ込められた鳥は、ゲージから逃げ出せたんだ。
ただ、自由でありながらも寂しいな、とは思っていた。66号の事だ。
彼については年上のお兄さん、という感じで。今になってみれば死なない、とは老衰も含まれるようで年は再会しても重ねていなかった。
凄く体調悪そうな、常に機嫌が良く無さそうな顔をしていた66号。会話をする時は少し、優しい表情をしていた。だからこそ、狭い世界では私が一番懐いた相手だった。
ご飯を食べる時、時々私の器に分けたりもしてくれたな。
お返しがしたくて、カレーに入っていた肉を66号の器に入れたら凄く遠慮をされて、私が駄々をこねて無理にあげた事もあった。
あの時は少し困ったように笑って、撫でてくれた。あの手が今も好きだ。撫でてくれる時にとてもあたたかい気持ちに当時も今もなれる。
あの年齢ですでに66号に恋をしていたのかもしれない。気がつくのはあまりにも遅すぎてしまって、手遅れになってしまったけれど。