第33章 31.
少し、心に冷静さを取り戻す。ほんのひと呼吸。隠した心の奥底を表すように、晴れた空でありながら雷鳴を呼び寄せる地響きをならす。獰猛な雨雲に住む龍の咆哮の様に。
そして、指先を黒い精子が固まる場所へと指す、私から獲物に飛びかかる青白い稲妻を。ピシャアアッ!と、空気を切り裂く咆哮。
「「ギャアアッッ」」
何体もの黒い精子が死に、ついでに醜い男の片腕を巻き込んだ。
「ああっああああっ…!てめーこの女ァ!」
瓦礫にこべりつく仲間の達の死の恨み、こちらへと飛びかかる黒い精子達。
ザザッ、と滑り込むようにジェノスが前に立ち、蹴って対処していく。
『ジェノス、腕が…、』
「オレはサイボーグだ、腕の修復など後からいくらでも出来る。お前は後方からタツマキを守りながら援護していけ!」
『わかった、援護を、』
バキ、メリメリィ…という音が後方でした。
ジェノスから振り返り、目に入るのは大きな瓦礫にめり込んだタツマキ。
「風神と対をなす存在なのは分かったが、超能力にそんなもの…通用などせんわ!」
『…んのっ、』
私だって風神の全てを吸収した訳じゃない。手足がもげ、私の攻撃でその他もろもろが欠けた風神を吸収した。100%ではない。本当に死にかけて吸収良く取り入れたとしても、対比的には雷神の要素が大きくなる。それでも。
サイコスに向けて両手を向ける。タツマキはS級ランク2位の現在戦えるヒーローでトップの存在だ。失ってはいけない。それに、ただの知り合いでもただの同僚でもない。
フブキと買い物に行った時に一緒に買い物や食事もしたのだ。多少口も悪く、態度が大きく、シスコンがすぎる所はあるけれども、話が出来る人だ。
そんなタツマキを、ボロボロになっていく様子を指を咥えて見ていろ?逃げろ?そんなのはヒーローじゃない。