第32章 30.
もしも今、攻撃されたとしたら私がどうこうするよりも、運んでいる3人になんとかして欲しいくらい。
「おめぇ!今!落とすなよ!?」
ややキレているアトミック侍。落としたらゾンビマン以外は死んでしまいそう。
今の高度はどれくらいか……、ん、300メートル?と軽い情報を風から受け取る。そりゃ落ちたら死ぬわ、調整を怠らないようにしなくちゃいけない。
空を駆けていくと、大きな塔に近付く。視界に収まりきれない程に近付けば、そこは既に戦いの場になりつつあった。
『優しくは降ろせないから、地上から5メートルくらいで良い!?』
「乱暴じゃないか!風雷暴の暴とは乱暴や暴力から来ているのか!?」
「俺はともかくアイドル様が居るんだ、もうちょっと丁寧にしてやれ」
「せめて3メートルにしろォ!可能なら2メートルがいい!」
『(ゾンビマンはともかく)皆、我儘だなぁ…』
文句を垂れ流す人達を空中で解放し、先に着地した私は下からの突風で3人の落ちる重力を弱めた。
ヨロヨロとしながら着地するのを見て、ホッとした表情のアマイマスクは感情が忙しくブチギレている。
「今!君は能力解除をして落下させたね!?」
『最後は優しく着地出来るようにしたのに……』
遮るものの無い、瓦礫の地面と頭上には空。
だというのに、私の視界に、アマイマスクのつやつやな髪に影を見た。
「超能力とは違うが、自然を操るというのもなかなか…、」
「……っ、おい!さっきの光の玉の奴だ、伏せろ!」
ゾンビマンの掛け声にとっさに避ける。流石、A級トップとS級だ。
次に光る玉は近くの塔を攻撃し始める。あの光の玉を出す奴がここに居るという事は、ジェノスや駆動騎士はまさかやられてしまったのだろうか?塔へ登っているフブキ達はどうなったのか?
木が倒れるように、崖が崩れていくように。バランスを崩した巨大な塔は、中途半端な位置にダメージを負ったせいで崩壊を始めた。
いくら、風神の力を持っていても、視界いっぱいの瓦礫を全て避けきる事なんて出来ない。それでも頑張って、生きることを考えて、ぶつかりながらも避けて。
腕が挟まった時にはフブキからの肉体強化はとっくに切れていて。
最後に聞いた声は、自分が短く呻く声だった。