第25章 23.
風を使って移動速度を上げる。
『ゴホ、ゴボッ…ガハッ、ぺっ!』
血を吐く度に吐き出す口の奥から蒸気が漏れる。呼吸が荒い、フーッ、フーッと命のやり取りの中、肩で息をし昂ぶっていた。
大ぶりな動きとはいえ、ゴム特有のしなりで鞭のような攻撃もある。さっきの叩きつける攻撃は痛かった。左手が複雑に折れ、手首から先が潰れて動かない。
あの、頭のドローンに切り刻まれた時よりは少しだけ痛みがマシだけど、痛いもんは痛い。その前にこいつに受けた腹パンは確実に内臓がやられている。足がさっきからガクガクとしている。
慣れない痛みが全身にある。
再生すると言っても痛いんだからしょうがない。まだ右手は大丈夫、しっかりと柄を握り、ケバブのように大部分を削ってきた怪人に斬りかかろうとした。
ポウ…。
『……わっ』
浮遊感。風神や雷神の能力を使ったわけではない。僅かに緑色に光る丸いものの中に私が入っている。
内側からその膜を触る。簡単には破れ無さそうだ。全面に丸みを帯びているから、内側も外側も、私を中心として守られている感がある。そのまま浮いていく。
透明な膜の下、怪人は私を追いかけてきているが、この丸い膜は簡単には壊れないようで、ゴムの拳であってもサイタマの頭のようにつるつると弾いていた。
瓦礫をかき分け、上昇していく。その後に付いてくる怪人。ゆっくり故にピッタリと。
「逃さん…逃さん…」
自慢の艶なしゴム筋肉もだいぶ削げ、眼球もゴムで出来ているんだろう、睨みつけて膜に顔全体を押し付けている。
ポンチョ裏から本数のかなり減ったレーションを一本取り出し、口で開封して齧る。
『心配すんな、地上に出たら、私のこの痛みを償わせてやる…』
ゆっくりと上昇をしていく。しっかりと獲物も引き連れながら。
ゴ、ゴゴゴ…ボゴッ。
暗い地中から見事に地上に出た。
なんてこった。悲惨だ、地上は…。
私が最近過ごしてきたこのZ市は壊滅していた。