第22章 20.
一口では入らなかった残ったレーションを口に入れ、雷を纏って突っ込んでいく。
仄暗い通路の中さっきの獲物を狙って。逃げたからとて、怪人だ。人を選んで迷惑を掛けるだろう…夜中に多分騒音とか出してそう。
たくさんの黒い何かを感電させ、蹴散らしていく。ぎゃあとかいう叫び。アトミック侍が構えた状態で、怪人の顔と思わしき者と共にこちらを見ていた。
私の獲物は、黒い何かの密集した中で狼狽えている。立ち止まる為に風を起こして勢いを殺す。
「なんで執拗に来るんだよぉぉー!!」
……来た道に帰ってく。Uターンというやつだ。
口をもぐもぐとさせて逃げていった爆速欲張りセット野郎にちょいちょいと指を向け、こちらを見るアトミック侍。
「おう、あっち行ったな…」
『どこに隠れようが追い詰めて狩る、けど…何この、』
全身タイツみたいなのは。
あまり見ないファンシーさを持った怪人的なもの。指先で差すとアトミック侍は肩を落とし、怪人は何体か肩を怒らせた。
「俺は黒い精子だ」
『は?せい、し……?精子ってその…白いやつじゃなく?』
下品な怪人名だなぁ。
ああ、そうだ。精子で思い出してきた。
"お前が来るまでにヒーロー協会に連絡した。お前の名前は協会から消えるだろう。
だから、お前はせめて俺のそばで、子供を生んで、出来るだけ長く生きて──"
"その風神・雷神の能力は命を繋ぎ止めるモンだが、使えば使うほどに命を、削ってんだ……俺は、お前を失いたくない…、愛し合った証を、お前の生きている証が欲しいんだ…"
無理矢理に孕ませようとしてきた、あの時の言葉が脳裏をかすめていく。私の人生を決めつけ、自分の籠に閉じ込めて、飼い殺しにしようとした、あの行動と言葉。