第16章 14.
温かい風を感じる。
全身に春の陽気が愛撫するように、私の眠りから優しく揺り起こすような風。
ゆっくりと目を開ける。
とてもたくさん眠った、夢なんて見たっけ、見なかった気がした。
柔らかな暖色のライトの温かい送風。
私は素肌のまま、横になっていた。培養槽…の中ではあるけれど、頭を動かすと髪が僅かに湿っている。培養液を抜いて乾燥させているんだな、と悟った。
3日も浸かっていれば皮膚も水を吸って弱くなる。こうして乾燥させているんだな、と狭い容器の中で理解しながら暖かさにまどろんだ。
次に目を覚ますと布団の中だった。バスタオルで体を包められて入っていて、頭を動かすとあぐらをかいてうつらうつらと船を漕ぐ博士が隣に居た。
『はかせ』
声は枯れてはいなかった。ただ、声を久々に出した気はする。
声を掛けられた博士は船を漕ぐのを止め、体を起こした。
「やあ、体の調子はどうかな?」
布団に入ったまま、考える。右手も左手も動き、両足も動く。胴体には痛みなどない。五体満足だった。
すっと上半身を起こす。素肌の出た肩が少し肌寒いくらいで痛みなどの不快さはどこにもなかった。
視線を博士にやる。私はただ頷いた。
「最低3日、が5日も掛かってしまったよ。でも、時間をかけただけはある」
ずれ落ちそうな眼鏡を掛け直し、手書きで書かれた書類を持つ。
目を通し、私へと向き合った。
「今までよりも能力が上がった。そして、私とゾンビマンから勝手ながら再生力をプレゼントさせてもらった」
『再生力……?』
嫌だったかな?と僅かに困った表情が取れた。言わなかったからか。
でも私にとっては嬉しいことではあった。
『いえ、ありがとうございます…それはそれで嬉しいし…』
「そ、そうか…。喜んでもらえてよかったよ。
再生時間はゾンビマンほどではなく、また再生するために生命維持本能が活発になるだろう。生理的欲求の向上…ここに来る前と同じような感じだよ。たくさん食べて寝ればもがれた四肢は再生するさ」