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欠落の風雷暴

第14章 12.


驚いて胸ぐらを掴む手が緩む。ジーナス博士は少しよろめき、体勢を立て直した。
隠し扉から隠し通路、そして研究所へと博士を先頭に進む。やや古い日本家屋の地下は最新設備だった。

進化の家の規模にすら到達しない、小さな研究所だ。少し懐かしい、薬品の香りが鼻をかすめる。

「この部屋だ」

中に入ると、大きなタンクが隣の培養槽に繋がれている。
培養液で満たされた中には、天井からは複数のチューブが下へと垂れ下がり、中央で瞳を瞑り素っ裸で液に浸かるハルカが居た。培養槽を照らすエメラルドグリーンのライトが主役の彼女を照らして、まるで眠り姫とか人魚姫のような芸術的な光景でもあった。
まさか、こんな状態になっているとは夢にも思わず、声を失う。

ゆっくりと近付く。
水の中に泡が浮き上がる音、モーター音に俺のブーツの音が追加される。
温かいこのガラスに触れて頬を付けてでも近くを見たかった。触れることの出来ない状態、たくさん触れて感触を知った柔らかい乳房が前後に揺れる。呼吸があるようだ。
どうしてだ、どうして…守れなかったのか?俺は…。

「ハルカ……」

曲面のガラスから頬を話し、培養液に浸かったままのハルカから目が離せないままにジーナス博士に問いかけた。

「どういう事だ、説明しろよ。こんな風になった経緯を…!」

背に隠した斧を取り出すと、冷静だった博士は慌てふためいた。

「振り回したら危険だ!ハルカを死なせる気か!?」
「…は?」

そのあまりの必死さに、脅すつもりの斧をゆっくりと降ろしてしまった……。
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