第13章 11.
「君次第の話であるが、どれくらい生きられるか、のもう一つの選択肢がこの家にはある」
風向きが変わった。
希望が生まれた。
私にはまだ、すがるものが残されていた。
──魂のない、亡骸の76号の体。
骨にする事なく、再生技術で両肘、両膝程度までは回復出来たらしい。
風神は雷に弱く、不死身シリーズのゾンビマンの再生能力を僅かに与えられた。だからこそ回復はゾンビマンほどじゃないけど早まった。それでも子供の頃の私の雷神の力は大きく、回復できないレベルの能力で風神をあんな見た目にしたらしい。私の意識がないうちに、というかそんな実験をしていたのかと初めて知った。
風神は雷神側の私の力は少々使えた。名の通り、風は得意だった。
私が長く生きられる方法とは、その私の対となる、"76号をどろどろに溶かし、私の中に注ぐ"という話だった。クローンとしての欠陥は消え、能力が向上する。良い事尽くしかもしれないけれど、壁となるのが私のトラウマ。
『いくら手足が欠損していても、人間が人間一体分を取り込むなんて……、』
「体の外は特殊な培養液に浸かってもらい、点滴のように、76号を血管から取り込む。3日は最低でもかかる」
想像をする。ガラスの中にぷこぷこと浮かぶ実験中の怪人たち。あんな感じで、点滴をプラスするのか。
それからひとつ、私には気がかりなことがあった。
『博士。クローンがオリジナルを取り込んだら、私は一体"どっち"となるの?』
クローンが栄養摂取をした、なのか。それともオリジナルを取り入れたからクローンがオリジナルなのか。どちらでもない、なにかなのか。
驚いた顔の博士は微笑した。
「ハルカはハルカだろう、君は77号、ハルカのままだ」
視界がゆらゆらと水に溺れて滲んでいく。
もう、目の前に居るジーナス博士は、あの頃の博士ではない。私を私として見ているのだと。
『私を、このままヒーローとして生きられるようにして下さい…!』
「……ああ、娘の頼みだからね。叶えてあげようとも」
私の視界を浸水していく海は、布団に溢れ落ちていった。