第12章 10.
目を覚ました。そこは知らない天井だった。けれども知っているような気もした。
空気が、なんだかどこかで嗅いだ事のある匂いがする。なんだっけ、どこだっけ。
和室の部屋、ああ、背中が固めなのは布団が敷いてあるからか。納得だ。
で、ええと…ここは。
状況を把握しようと周囲を確認する私に聞こえてきたのは、落ち着いた足取りが近付く音。ふすまが開けられる。
「おや、目が覚めたようだね」
『ジー…スはか、せ…』
私が発した声はすかすかの声だった。私は声ですらも、こんなにも弱々しい声だったっけ。風神の声よりも掠れて、ますます弱そうだと自分でも思うよ。
博士は水差しを持って、ゆっくりと水を飲ませた。すーっと水分が唇に、口内に、喉にと染み渡る。何度か飲んで要らない、と表現するために首を僅かに振る。
「驚いたよ、大怪我をしてくるのだから」
『怪人に…切り刻まれて…。本当は、血を吐いたから、そのまま来ようとしたんだけど…知ってるヒーローを助けたら、私がこうなって…』
全身がだるくて重い。博士は、落ち着いた表情だった。
「待ってたんだよ、君が来るのを」
『…』
静かな空間。言葉がはっきりと聞こえる。
「ゾンビマンから聞いただろう?だからこそ、早めに来て欲しかったんだが…彼はどうやら、焦りすぎたようだね」
ははは、と小さく笑い、眼鏡をかけ直す。眼鏡の部品がカチャ、という音がはっきり聞こえた。
『私の健康面とか、寿命以前に、来たいとは思ってたけど……』
風神…、私のオリジナルの事もある。骨にしているんだったら線香をあげる…と知識はあった。実際はそのような経験をしていないんだけれど。