第10章 8.
口から鮮やかな赤が飛び出した。
よく見る色だった、怪人を倒して回ればそりゃあ毎日見てる。色の違う体液もあるけれど、見慣れないものでは無かった。また、女に生まれた故に月経で毎月数日間、自分の腹の中から剥がれ落ちた血と対面もした。よく見た赤だった。その色は、好きな人の目によく似た色をしていた。
けれどもこの血はよくない血の出し方であると理解していた。警告しただろう、と数日前に向かい合った、無愛想な顔についた二つの赤が私の脳内に語りかけてくるようだった。
『……』
美味しいものを食べて気分が良かったのが、最悪になった。
見ないように、飲み物とサンドイッチのゴミを袋に入れて、そのままゴミ箱に捨てる。
そのまま屋上で風を起こして、方向を確認する。まだ血を吐いただけだ。喉の奥がひりひりする、出血した場所はそこなんだろう。喉くらいならまだ大丈夫だ、臓器じゃない。肺じゃない…多分だけれど。
Q市のデパートの上、手を上げて風から情報を集める。情報を集めるのも結構精度が上がってきていた。
散々嗅いだ香りだ、ゾンビマンについては場所を特定するのは簡単だった。そこから離れるように移動すれば良い。
ただ、今は会いたいけれど会いたくない彼じゃなく、違う人の方向を特定する。
屋上のコンクリートを風と右足で踏み出し、民家の屋根へと渡っていく。今ここにいるなら丁度いい。
急いで、なるべく早く。バレないようにひとりで、こっそりと。
風神の力で加速していく。
Q市を出て隣の街へ。首元の風神こと、76号の亡骸が入ったペンダントトップが風に揺れて存在を主張した。
急いで居ると、やはり最近は怪人の出現が多いのか、騒ぎのある空間を発見した。
『…チッ』
自分の体も大切だけれど、通りかかったのだ。方向を変えてその場所へと駆けつけていく。
すでにヒーローはそこに居た。巨体のカマキリだろうか、頭は図鑑でみたカブトガニのようにも見える。全体は茶色でつやつやしていた。
戦おうとするヒーロー達は前に見たことがある、いや、昨日見た姿だ。