第9章 7.
ビジネスホテルの一室で、ベッドに1人仰向けになる。
お風呂に入って寝支度を整え済みだ。武器の手入れも終えている。
夕飯となった弁当のゴミを見る。
確かに、たくさん食べている。一つの弁当はおよそ、1人が食べて十分の量だろう。2パックと惣菜、サラダにカップケーキだ。2人分は食べておいて、まだもう少し入りそうな気もする。
確かに、ヒーローになる前は全然食べることが出来なかった。食べたくても、わざわざ食事のために少ない所持金を当てるのは躊躇われた。ましてや、調理方法もわからず、調理場所もない。質素な食事…いや、栄養補給程度だった。
それが、普通を知ったらたくさんの食べ物があるんだ、色んなものを食べる。
"美味しい"から食べていたつもりだったんだけれど、どうやらそれは"死にそうだから"食べていた、と。実感が湧かない。ゾンビマンがジーナス博士にそう言っただけで真実かどうかが不明だ。
眠るのはたくさん移動して戦って、疲れるからでしょ。性行為は……それを、好きな相手だから…気持ち良いから。
あの日以外の、優しい思いやりのある行為を思い出した。優しく愛撫して、子供みたいに胸に吸い付いて、ぎゅっと抱きしめる恋人を。私よりもずっと大人でクールな男が、甘えて小さな子どもみたいで可愛いと思えて、ついつい顔が緩んでしまう時だった。
それをかき消すように、思い出さないように…封印するようにベッドの上でもだもだと頭を抱えて暴れる。
『(考えない…!考えない!)』
会いたくない。寂しいけれど、今は会いたくない。私はまだ、ヒーローとして居たい。普通を知ったからと言って、今までを忘れることなんて。
でも、ゾンビマンと生きるのが一緒なら少し嬉しい。けれども…あの強引すぎるやりかたもそうだけど。
でも、そのゾンビマンが選んだ私の人生って。私が死ぬから看取るって事じゃん。
恋人になる前、私は恋を知らなかった時の胸の痛みを訴えた事があった。体の異常なんてこれまでにない。戦って打撲傷とか、それくらい。