第77章 75.
『えー……じゃあー……パンかおにぎり的なもの、3個以上は欲しい』
「ん、分かった。ああ…それから、ヒーロー協会の親睦会が今度あるんだが、お前も参加するか?温泉旅館で参加費無料だとよ」
『なにそれ、行きたい』
ふにゃふにゃと緩んだ顔で笑ったハルカ。可愛い、可愛すぎる。
被さる様にその唇にキスをして、離れる。照れているのか、嬉しいのかは分からないが、ニコリと笑って掛け布団を被った。
遮光カーテンを開け、レースのカーテンに切り替えて、ボクサータイプのパンツを履き、いつもの服を纏っていく。
大きな音を立てないように、静かにドアを締めて、マンションから外へ。
ポケットの煙草を取り出し、朝の少し冷たい空気に煙を吐いた。良い朝だ、怪人の騒ぎも無ぇし、家には待つ人が居る。
ふと、空に自分の左手を上げてリングを見つめる。
「夫と妻、ねぇ……、ふっ」
家族っていうのも悪くない。
コンビニに向かいながら、協会に親睦会への参加の連絡だけをして、携帯をしまった。
リクエストにない、朝から腹には重いだろう、ケーキでも買ってきてやるかと一番近いコンビニの店内に入った。
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ふわっと漂ってきたコーヒーの香り。
いい匂いがする、と布団から顔を出す。さっき起きた時に夢かと思ったけれども夢じゃない。ここはゾンビマンのマンション。左手の中指と小指が、薬指に嵌っている硬いものを認識している。
そっと眼前に左手を出して、一人にやけた。嬉しい。どきどきとしながら、その婚約指輪を大事にするように右人差し指で撫でる。
寝室のドアは開けっ放しで、そこから漂ってきてるんだろうか。
ドアの方向を見ていると、羽織る布団が摩擦無く、また引っかかる物がなく肩からするすると落ちて素肌が晒される。レース越しの太陽光は温かいけれども、服を着なくちゃいけない。
昨晩使った、敷いていたタオルを取りベッドから立ち上がる。ぬるりとする下半身をそのタオルで一度拭いて下着や服を着ていく。
乱れたベッドを直して、寝室を後にした。