第76章 74.激裏
「お前が先にイッちまったからな、俺に少し従って貰っても良いか?ちょっとベッドに座れよ」
『聞いてないぞ…そういう罰ゲーム的な事は』
「ああ、今言った」
後出しジャンケンのようだと、渋々従う事にした。
ふらふらしながら、下半身の下に敷かれたタオルを移動させてベッドの縁に敷き直し、そこに座る。
ゾンビマンは床に降りて膝立ちで私の顔を、両手で挟む。必然的に視線が逸らせない状態だ。
「目を開けろと言うまでは目を閉じてろ、良いな?」
ふう、と息を吐いて目を閉じる。
視界が絶たれた暗闇の中、両膝をピッタリ閉じられ、手を膝上に乗せられ、背筋をまっすぐにさせられ、と姿勢を正されていく。
そして引き出しを開ける様な音、かたかた、と物音がする。カコ、という軽い音…素足で数歩近付く音。
何がしたいんだ、とされるがままに目を開けるタイミングを待っていると片手を執拗に撫でられる。
そして、良いぞと一言、声を出された。
目を開けると、ゾンビマンは目の前にいる。
「なんか違和感ないか?」
『違和感……?』
体が欠けて居るわけじゃないし、と両膝を見ていて気が付いた。
10本ある指の内に一本だけ、暖色の照明を反射する、きらりとしたアクセサリー。
『……これって、』
左手の甲側から薬指を見る。シンプルな銀色のリングがあった。
その綺麗なリングから視線を床に膝を着いて見ている男へと移す。
「籍をこれから先に入れるからこいつは婚約指輪ってやつだな。いくら永遠の愛を謳うプラチナリングでもヒーローやってれば無くすことだってある。
なくしたら何度でもこうして、お前にはめてやる」
思わず急なサプライズに驚いて口元を手で隠す。指輪が唇に触れる。はめ込んだことに感づかないようにしたのか、私の体温より僅かに高い温もりが残ってる。
頬に何かが伝って、指先で触れたら私は泣いていた。
「永遠になんて無理かもしれないが、生きている限り…この世の終わりまで幸せにしてやる。
なあ、ハルカ。俺にもお前の手ではめ込んでくれよ?」
差し出されたリング。震える手で私は彼の指におそろいの指輪をはめ込んだ。