第72章 70.
その一言で思い出すのは博士との電話。
プロポーズも済んで博士には文句はこれで言わせない、と堂々としている。
『あっ…切るんだっけ。今日我慢して明日にでも取り外して貰えば良いのに…わざわざ今日、痛い思いしなくても良くない?』
「良くない…っ!結婚を申し込んだ日にせっかくお前を部屋に連れ込んでも、手を出すなと言いたいのか?
勃起もセックスも出来ないとか、最悪の事態だろうが…!」
『そ、そう…』
まだ切ってすら居ないのにあまりにも悲痛な表情で否定されたらこちらとしては何も言えない。
しっかりとナイフを握りしめて、片手で器用にベルトのカチャカチャと外している。博士特製の"枷"を早く外したいんだろうな……。
「という訳でよ、もしかしたら叫んだり呻いたりするかもしれんが…覗き込むなよ?終わった後は飛んだ血液の掃除はしておくが…」
『まさかとは思うけど切った後の処理はどうするの?そういうのって民間の処理場だと事件になりそうだけど』
「……んなもん、細かくして便所に流せば良いんだよ。貞操帯は危険物で分類してよ…」
『便所て…自分の元・大事な相棒だよ!?』
離れてしまえば良いのか、と視線でその勇敢なる男の大きな背中を見送った。戦地にでも行く様な背だ。
リビングのソファーで待っていると、ぐああ、とか何か呻く声が聞こえたけれど、ゾンビマンは風呂場で戦っている雄叫び。
もうしばらくすれば、トイレの流れる音、そして行きと同じくズボンをちゃんと履いてやってくる。もう、ゾンビマンを縛るものはなく、表情は自信に満ちていた。