第71章 69.
『も、もしもし、お父さん?』
「やあ、本当に心配したよ、朝のニュースに出ていたからね……でも、無事で良かった」
携帯の向こうから聞こえるのは、鼻を一度啜る音。
「君はゾンビマンと一緒になるんだね……寂しくなってしまうなぁ…」
『別にもう会えないって訳じゃないんだし、今日だけじゃないの?』
大した荷物は無いけれども。それに家族だもの。
今日だけ、という言葉にゾンビマンは首を振る。
えっ、今日からなの…?
電話の向こうの博士はまた鼻を啜る。
「う…おめでどう…っ、ズスッ…施設を破壊しだり、君を連れざる゛ぐすっ…暴力的な所もあるげど…っ」
啜り泣く声が大きく、嗚咽が激しく。背後にアーマードゴリラが居るんだろうか、タオルです!とかティッシュ!と、聞こえる。ゴリラに電話の補助をされている。
あのアーマードゴリラだから、きっと背中でも擦りながら博士を心配してるんだろうな、と向こう側の光景を想像した。
電話をする私の隣で少し屈み、携帯に耳を当てるゾンビマン。携帯を持つ私の手に耳や髪が当たっている。
「…すまないね、うん、ゾンビマンが嫌になったらいつでも戻って来なさい。私もアーマードゴリラも、君の帰りをいつだって待っているからね」
「聞こえてるぜ、ジーナス」
「聞いていたのか。君はちゃんとこっちに挨拶に来るんだろうね?ハルカを大事にするんだろうね?悲しませる事をしないだろうね?それから、」
「挨拶は行く。わざわざ聞かずとも…分かってんだろ?」
私の隣でハンズフリー状態での電話をしながら、武器のメンテナンスをしているのか、サバイバルナイフを見て、切れ味を確かめている。スッ、と切れた親指の腹は蒸気を出して即座に再生されていた。
「貞操帯のロック解除はいらねぇ、こっちで切る」
『切るの!?』
「痛ぇだろうが、早めに処理しちまえばいいだろ。余計に切れば面倒くせぇ薬も注入されないハズだ」
「トカゲの尻尾のように君は考えているね?」
貸せ、とぶんどられて通信が切られる。
その私の携帯を素肌のまま羽織っている、ゾンビマンの上着のポケットにすとんと入れられて私の腕を掴む。
袖の長い上着から私の手を探り、その手をしっかりと握られて街へと進む。
「服買って街で飯食って、俺んち来いよ、ハルカ」